独特の空間の試み、菊元仁史展を見る

 菊元仁史展を見る。タイトルが「視者の場所」、5年ぶりの個展だ。抽象的な立体。会場の画廊は東京銀座8丁目のexhibit LIVE & Morisで、前回2002年の個展と同じ場所。第1回から第3回まではギャラリーQだったが、画廊のオーナーが変わったので名前も変わっただけで、菊元の全5回の個展はすべて同じ場所だ。
 細い角材の脚の上に作品が載っている。左右1メートル強、奥行き1.5メートル弱か。手前から奥に角材が並べられ、上部にも同じ角材が並んでいる。上の角材と下の角材をたくさんの垂直の針金が結んでいる。また針金と交互してたこ糸みたいな紐が上下を結んでいる。その針金は横に規則正しく列を作っている。針金の途中に短い金属棒が止められている。これが全体の構造である。
 さて、その作品を見ると、たくさんの針金と糸が重なってどうなっているのかよく分からない。正面と左右の脇から見て、上記の構造を知ったが、それはいわば知識だ。見え方としては、深さというか奥行きがあいまいになってしまう。霧の中にいるように距離がつかめないのだ。
 川村直子インスタレーションを思い出した(これは2001年のコバヤシ画廊での個展http://www.bekkoame.ne.jp/ro/ezanofu/2001.htm)。テグスを縦横に碁盤の目のように等間隔に張ってさらにそれを縦に何十層にも重ね合わせ、それらを縦糸でもすべて結ぶ。その交差しているところに玉を付けている。糸が作る立方体がずっと向こうまで続いている。その作品は菊元と正反対で、空間がきっちりと制御されている。作家によって統制されている。奥行きが途方もなく深く感じられてほとんど無限を出現させているかに見えた。
 菊元は逆なのだ。奥行きがないように見える。空間があいまいになって溶解している。遠近法が混濁している。見る者は混乱してしまう。
 作家と話した。立体の空間を消して平面に見せたいのだという。それなら正にそれが実現しているのではないか。今までそんなことを考えた作家がいただろうか。立体作品は普通いかに空間を作るかではなかったか。面白い作品だ。面白い試みだ。もっと注目されてもいい作家だと思う。


菊元仁史展「視者の場所」
2007年3月12日〜17日、於exhibit LIVE & Moris


菊元仁史


菊元仁史


菊元仁史


(参考)川村直子