虫えい形成昆虫が枯葉を生長させるという驚くべき事例

 2005年9月に京都大学で行われた「ゴール形成節足動物生物多様性に関する国際シンポジウム(主催:日本虫えい形成節足動物研究会)」で驚くべき研究が発表がされた。専門的な内容だがきわめて重要だと思われるのでここに紹介したい。これは同シンポジウムの英文の講演要旨集から日本語に翻訳したもの。
 ゴール=虫えい(=虫こぶ)とは昆虫などが植物に寄生し、それによって植物にできるこぶなどを言う。湯川淳一ほか編「日本原色虫えい図鑑」参照。
 この発表では、植物に虫えいができることにより、地上に落下した落ち葉がなおも生長を続けたという驚くべき事例が紹介されている。虫えい形成昆虫によって酵素か何かが作られ、これによって落葉した葉がなおも生長を続けたのだろうか。これは植物生長調節剤など何か新しい開発につながるのではないだろうか。

「落ち葉での虫えいの成熟」

発表者:徳田 誠・湯川淳一・深津武馬


 多くの生物学者は生物学的相互作用や共進化の過程を学ぶ上で、植物と草食生物の関係に特別な注意を払ってきた。草食生物の中で、虫えいを作る昆虫は、彼ら自身の目的のために特定の植物形態を誘発する高度な方法で、植物組織を巧みに扱うという点で驚かされる。ここに、エゴノキの葉に扁平な半球形の虫えいを作るContarinia種(Diptera: Cecidomyiidae)について報告する。エゴノキに寄生する他のタマバエ科の幼虫は急速に成熟し夏前に虫えいから離れるが、Contarinia 種は1齢幼虫として夏を過ごす。秋になると幼虫は2齢から3齢(=終齢)幼虫へと発達し始める。エゴノキの多くの幼虫(虫えいを形成するものも、しないものも)は、この時すでに下りてしまっている。幼虫の発達と同時に、扁平な半球形の虫えいは球形に成長する。落ち葉の上の虫えいであってもである。9月の間、落ち葉の上の虫えいにおいて、幼虫室の数と大きさは著しく増大した。落ち葉の、虫えいが形成されていない部分がすでに枯れてしまったときでさえ、その同じ葉の虫えいの部分は10月にタマバエの幼虫が脱出するまでまだ新鮮であった。これらの結果は、Contarinia種はそれらが成熟するまで落ち葉の植物組織を生かしておくことができる、ということを示唆している。この現象は、草食生物が、別の状態では死ぬことを予定されていた植物細胞の生存と発達を延長するという点で注目に値する。