立花隆が亡くなった

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吉原すみれ



  立花隆が4月30日に80歳で亡くなったと新聞などが報じている。朝日新聞では「知の巨人 調べて書き続けた」と5段見出しで扱っている。私は立花隆の著書は対談を除いてほとんど読んでこなかった。あの「知の巨人」という形容にも素直に納得できなかった。ちょっとオーバーじゃないかと思ったのだ。最近では松岡正剛佐藤優池上彰の冠としても使われているらしい。「知の巨人」のインフレである。

 かつて「知の巨人」について金井美恵子が『新・目白日録』(平凡社)に書いていた。

 

……(毎日新聞の)「ブックウォッチング」欄の下には、扶桑社の、後期高齢者の男性が読者として想定されていると思われる書籍の広告が5冊ほど載っていて、著者の外山慈比古を「90歳の「知の巨人」」と宣伝している。この「知の巨人」という、どう見ても安っぽい感じのする言葉は、たしか、文藝春秋立花隆についての宣伝コピーとして使用し始めたのが最初だったような記憶があるのだが、むろん、この言葉の意味は、巨きな知を所有している人物というわけではなく、かつて、〈巨人、大鵬、玉子焼き〉と言われた文脈に近いニュアンスでの「巨人」と解すべきだろう。

 

 さらに金井は続ける。

 

……先日亡くなった鶴見俊輔は「週刊朝日」の記事で「知の巨人」と呼ばれることになる。この何かのパロディというより、悪意さえ連想させてしまう言葉は、かれこれ20年も昔文藝春秋ジャーナリズムとでも呼ぶべきシステムが、立花隆に関する言葉として使いはじめたはずである。現在では、佐藤優池上彰に冠されることもあるし、「詩の巨人」と谷川俊太郎をテレビ番組では呼び、さらに空疎さは増すばかりで、むろんこの言葉は反知性主義の用語でもあるのだ。

 

 「知の巨人」と本当に言えるのは、南方熊楠とか加藤周一林達夫吉川幸次郎今西錦司あたりではないか。

 立花隆との接点を考えると、35年くらい前に、「シェ・タチバナ」というレーベルのCDを買ったことぐらいか。これは立花隆が企画し販売したCDで、吉原すみれの『とぎれた闇』というソロ・コンサートのライブ盤だ。立花隆の自宅で演奏し、立花がそれをCD化して直販したものだ。CDに付されたブックレットに載っている写真は35年前だから、立花も吉原もとても若い。

 立花隆の追悼に今夜はこれを聴いていよう。

 

 

とぎれた闇

とぎれた闇

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