野見山暁治『じわりとアトリエ日記』を読む

 野見山暁治『じわりとアトリエ日記』(生活の友社)を読む。2013年11月から2017年2月までの3年4カ月間の野見山さんの日録が収録されている。40カ月分の日録が500ページに収まっている。最初の『アトリエ日記』が2003年9月から始まっているから、もう14年以上が本になっていることになる。
 日記とは銘打っているが、公開のものだし、1日分は短い。2013年の日記から、

11月27日
 夢というのは潜在意識の現れだとか。知りあいの女のひとと、思いもしないのに、裸で抱き合って夜が明けた。

 この時野見山さん93歳。まだこんな夢を見るのか。いや、私だって、まれには見ることもある。裸で抱き合うどころかちゃんとsexしている夢だって見たことがある。最後まで終わることはなかったが。
 2015年の日記から、

3月9日
 ひどい雨。夜、遠藤彰子の叙勲パーティ。画面いっぱいに、人間の渦巻き。うまい筆使いではない。色が冴えている訳でもなく、形が美しい訳でもない。そんなことはどうでもいい。ひたすら膨大なエネルギーに圧倒される。

 遠藤彰子の作品を的確にとらえた寸評だ。
 同じ年の6月の日記から、

6月20日
 フランス人のフォロンが描いたようなほのぼのとした個展案内が届いたので、京橋に行くついでにギャラリーゴトウに立ち寄ってみた。描いた人は、見た眼に、ごく普通の小父さんだった。

 ゴトウのホームページで確認したら、野坂徹夫新作展だった。
 この年の11月、野見山さんは文化勲章を受章する。そのこともあって、90代後半というのに、絶えず人がやってきて、母校であいさつしてほしいの、文章を寄せてほしいのと、雑用に追われまくっている。絵はあまり売れないので、文章が主な収入になっているとどこかに書いていたけど、本当に締め切りに追われていて、絵を描く時間があまりないようだ。
 練馬区の自宅の隣に住んでいた妹のマドもその亭主の田中小実昌もとうに亡くなっていて、二人の娘のリエも亡くなってしまった。リエの息子の開がたまに顔を出す。
 体もずいぶん弱ってしまっているらしい。野見山さん、今年は98歳になる。あまり雑用をさせないで、たくさん絵を描かせてやってほしい。



じわりとアトリエ日記

じわりとアトリエ日記