野見山暁治さんの見た夢

 野見山暁治「続アトリエ日記」(清流出版)より。2007年4月8日の日記。

 オンナに触れる夢は繰り返し見つづけた。今も見る。欲情するものはとっくに体内から消えうせているのに、どうしてだろ。騙されていた。セックスには実体がない、イリュージョンだ。だから生きている限り見るだろう。

 野見山さん、このとき満86歳。同じ年の12月13日には振り込め詐欺に遭っている。
野見山暁治さんが振り込め詐欺に遭ったこと(1)(2009年12月10日)

 昼近く電話がかかってきた。今いいか? イチは図々しく気が小さい。いいも悪いも、ぼくは終日、アトリエの中を歩きまわっているだけだ。

 イチはしばらく口ごもり、今ほんとうにいいんだなと念をおし、困ったことになったと呻くような声になった。そんな小さな声では分からん、いったい何だと僕が焦れて、たたみかけると、どうやら小娘を孕ませた様子。

 以前から徒っぽく手を出す男だったが、性こりもないとみえる。まだ五ヶ月、堕ろすことにはしているが、向うの親が訴えると騒ぎだして、という今までのいきさつを、イチの声はあまりにもか細くて、いらいらするほどの時間がかかった。

 以前にも似たようなことで、ぼくは身替りに病院へ行かされたことがある。しかし今って孕ませたりも出来るのか。美校の同級生だから86歳、これはギネスものだ勿体ない、思いとどまれ。ぼくは危うく励ましそうになった。

 86歳で妊娠させたらギネスものか。なるほど、そのくらいの年齢の方が、顕微鏡でご自分の精子を見たけれど、若い頃と違って全然元気がなかったと言われていたことを思い出した。
 しかし、86歳になっても女に触れる夢を繰り返し見るのか・・・


 写真は先月5月30日の野見山暁治さん、このとき満89歳、若い!
 神田文房堂での加納光於さんとの対談で。

アトリエ日記 続

アトリエ日記 続