平凡社コロナ・ブックスの『松本竣介 線と言葉』を読んで

 平凡社コロナ・ブックスの『松本竣介 線と言葉』を読むというか見る。コロナ・ブックス編集部 編となっている。2012年6月初版発行。昨年の神奈川県立近代美術館葉山館の松本竣介展に合わせて発行したのだろう。厚くないページながら代表作は網羅されているようだし、デッサンやノートや写真も入っている。しかしながら、文章はきわめて少ない。堀江敏幸が4ページ、原田光が5ページ、その他、松本竣介の文章や友人だった麻生三郎、舟越保武、評論家の瀧口修造などの古い文章を再録している。それは必要であって、そのことに異議をを申し立てるつもりなど全くないが、もっと現在の評論家等の文章がほしかった。原田光にもっとたくさん書いてもらってもよかったのではないか。
 神奈川県立近代美術館葉山館と世田谷美術館で制作した松本竣介展のカタログのテキストが充実しているので、それと比べてつい辛口の感想を持ってしまった。まあ、しかしこのカタログは価格がコロナ・ブックスの1.5倍だけれど、ページ数は3倍強もあるのだ。図版もテキストも資料もずば抜けて充実している。1月14日までの世田谷美術館での松本竣介展の会期中はもちろん、その後も在庫があれば二つの美術館で購入できるだろう。
 カタログに掲載された原田光の「宮沢賢治は有り難い人だ」が興味深い。宮沢賢治と竣介の父佐藤勝身との交流をほぼ証し立て、竣介の絵画への賢治の影響を推測している。
 それにしてもこのカタログのテキストの充実ぶりは半端なものではない。加藤俊明、有川幾夫、水沢勉、加野恵子、長門佐季、柳原一徳、原田光、酒井忠康と8人が書いていて、分量だけから言ったらやや薄手で160ページ弱の中沢新一『日本の大転換』(集英社新書)に匹敵するくらいなのだ。あらためて新書に編集しても良いかもしれない。


松本 竣介 線と言葉 (コロナ・ブックス)

松本 竣介 線と言葉 (コロナ・ブックス)