山口百恵『蒼い時』を再読する

 先日、中川右介の評伝『山口百恵』(朝日文庫)を読んだので、彼女自身の自伝『蒼い時』(集英社)を32年ぶりに読み返す。山口百恵が結婚・引退に際して執筆したもの。前半の自伝と、後半のエッセイからなる。自伝部分は、出生、性、裁判、結婚、引退、随想の6章からなっている。以前も読んだし、中川の評伝を読んだばかりだったので目新しいことはなく、強い興味を惹かれた部分はなかった。ただ初めて読んだときは大スター山口百恵のプライベートな部分が明かされていて興味深かっただろう。
 今回面白かったのは後半のエッセイだった。中学生のときにした新聞配達で「十分すぎるほどに叱られ慣れてしまったようだ」とか、何度か体験した予知能力とか、死に関するエッセイも良い。
 文章に関する訓練を受けたことのないだろう山口百恵がどうしてしっかりした文章を書くことができたのか。おそらく阿木燿子などの易しくはない歌詞を深く読み込むことが文章力を磨く訓練になったのだろう。
 末尾に400字詰め原稿用紙15枚ほどの自筆のエッセイ「今、蒼い時…」が付されている。この筆跡を見たら、筆跡鑑定をしていたヴァルター・ベンヤミンなら何と言うだろうか。上手な字ではないが、悪い性格ではないようだ。

 なお、文庫版には自筆エッセイはないようだ。


蒼い時 文庫編集部 (集英社文庫)

蒼い時 文庫編集部 (集英社文庫)