中川右介『山口百恵』を読む。

 中川右介山口百恵』(朝日文庫)を読む。5月末に発行された文庫本の書き下ろしで、これが初版になる。「はじめに」で書いている。

 この本は、8年にわたる芸能活動での山口百恵の当時の「発言」をベースに、関係者が当時あるいは後に語ったこと・書いたことを補助線として、「山口百恵とその時代」の線描画を描こうとするものだ。(中略)
 この本は、「百恵ちゃんの魅力」を分析するものでも、「女の生き方論」を展開するものでもない。冒頭に記したように、「山口百恵とその時代」を追想するためのひとまとまりの資料として書かれる。

 本書では山口百恵のシングルレコードやLPのアルバムの発売と、その売上げやテレビの「ザ・ベストテン」の順位などを元にした人気が分析される。ライバルの他の曲の順位とともに。また出演した映画の観客動員数や人気なども紹介される。とても客観的な評価であり分析だ。著者の態度は主観を交える事が少なく冷静で信頼が置けるものだ。山口百恵という戦後美空ひばりに次ぐビッグスターの伝記資料として、書かれるべくして書かれたとも言いうるだろう。レコード業界の慣習なども知ることができる。百恵のシングルはテレビで流れてヒットするために作られ、アルバムはシングルとは別物として曲作りがされていたなんて知らなかった。ビートルズの方針に倣ったのだそうだ。
 本書が資料として非常に重要なものだということはよく分かった。しかし同時に一抹の物足りなさも感じられた。山口百恵引退前年の1979年に出版された平岡正明の『山口百恵は菩薩である』の主観と偏見ばりばりの面白さはここにはない。平岡の本と百恵の自伝『蒼い時』も読み直してみよう。
 山口百恵のアルバムは数枚持っていたし、CDも何枚かある。晩年?の百恵のファンだった。本書を読みながら、歌詞が出てくるとメロディーが浮かんできた。宇崎竜童の曲と、阿木燿子の歌詞が好きだった。


山口百恵 赤と青とイミテイション・ゴールドと (朝日文庫)

山口百恵 赤と青とイミテイション・ゴールドと (朝日文庫)