丸谷才一「思考のレッスン」を読んで(1)

 丸谷才一「思考のレッスン」(文春文庫)がおもしろい。

丸谷  鴎外の小説がつまらないのは、頽廃というものに関心がない。

丸谷  学者の書いたもので意外に忘れられているのが、百科事典などの大項目です。(中略)
 学者ではないけれども、イギリスにアントニー・バージェスという小説家=批評家がいます。(中略)彼が、『エンサイクロペディア・ブリタニカ』の「小説」という項目を書いている。(中略)
 その中でバージェスが、「小説の長さについて言うとすれば」として次のようなことを書いています。
「理論的には小説の長さはどんなに長いものでも可能である。しかし、ある程度以下に短くなると、それは小説ではなくなって逸話になる」
 これは小説と小説以外のものとの違いを上手に説明していますね。

ーー日本の百科事典にも、そんなおもしろいものがありますか?
丸谷  集英社から出た『世界文学大事典』で、川村二郎さんが「批評」の項目を書いてましたね。これはおもしろかった。「学問という円とエッセイという円とが重なった部分、その部分を『批評』と呼ぶ」なんて、なかなかうまい説明だと思いました。

(この項続く)


 百科事典の大項目については以前書いたことがある。
「百科事典としての新書」(2006年10月17日)


思考のレッスン (文春文庫)

思考のレッスン (文春文庫)