「チャリング・クロス街84番地」を読む

 へレーン・ハンフ編著「チャリング・クロス街84番地」(中公文庫)を読む。江藤淳が訳している。30年ほど前に発行されたとき評判になった本だ。文庫は1984年に初版が発行され、今年までの26年間で10刷が出ている。
 ニューヨークに住む本が好きなテレビドラマのシナリオライターである女性ヘレンが、ロンドンのチャリング・クロス街84番地にある古書店マークス社に本を注文し、その後彼女と古書店の担当者との間で文通が始まる。手紙の要件はほとんど本の注文とそれに対する返事なのだが、お互いが相手のことを気に入り、プレゼントを贈り合ったりして書店の担当者が亡くなるまで文通は1949年から20年間に及ぶ。ヘレンの注文する本の趣味の良いことが本書のミソなのだろう。江藤淳もそれが気に入って訳したのではないか。
 読み終わって、しかし満足したとは言いかねた。20年間にわたって親しく手紙を交わしたと言っても、破局や和解など大きな感情の振幅があるわけはない。言ってしまえばビジネスの余儀なのだから。部外者たる私にはさして感心するものはなかった。どうしてこれが評判を取ったのかそのことが不思議なほどだった。もっとも、原語で読めばアメリカ人とイギリス人の文通なのだから、米語と英語の違いの面白さがあるのだろう。日本語訳ではそれは反映されていなかったと思う。
 いや私と違って趣味の良いご婦人だったら楽しめるのかもしれない。


チャリング・クロス街84番地―書物を愛する人のための本 (中公文庫)

チャリング・クロス街84番地―書物を愛する人のための本 (中公文庫)