小堀鴎一郎『死を生きる』(朝日新聞出版)を読む。副題が「訪問診療医がみた709人の生老病死」。著者の祖父は森鴎外で、母は小堀杏奴、父は画家の小堀四郎である。
小堀鴎一郎は長く食道外科医として勤務した。国立国際医療センターを65歳で定年退職した後、埼玉県新座市にある堀ノ内病院に赴任した。そこから職人外科医から「死に際の医療」を専門にする「死ぬための医療」を考えて実践する医者に変わった。
日本の老人医療は、ついにいつまでも生かしておく、不老不死の医療を目指しているかのようだ。それに対して小堀は「命を終えるための医療」を重視する。「生への医療」から「死への医療」への転換だ。
この不老不死の医療について、小堀は書く。
人生100年時代を限りなく望ましいものとする国の理念に前後する形で、2001年に発足した日本抗加齢医学会は不老不死の夢を遺伝子レベルで実現することを志し、また先にも述べたように、ヘルスベネフィット別市場規模によれば、2012年度の健康食品・サプリメント市場規模は1兆4746億円であり、そのうち老化予防に関するものは610億円で、この額はある大手電機メーカーの電気冷蔵庫の1年分(2017年度)総売上額650億円に相当する。(……)まさに「挙国一致」で人生100年時代を目指していると言っても過言でない。要するにわが国の民は死なないのである。
当たり前であるが、われわれは早晩死ぬのである。ただ生きているだけの延命治療は、家族の自己満足と医療者の営利追及のためでしかない。巻末の黒岩卓夫との対談で、
小堀 (……)医療には、「生かす医療」と「死なせる医療」があって、その間にターニングポイントとがあると考えています。
黒岩 ターニングポイントというのは、言葉をずばり言ってしまうと、医療を止める時ととらえたらよいですか?
小堀 もうこれ以上生かすための治療を考えるのは止めよう。ここからは、もう死ぬための医療だと。見守る家族の心が休まるように皮下に500mlくらい点滴をやるとか。1日500mlの水分補給では人間は生きられませんから、死ぬための立派な医療です。
非常に優れた見解で、私も延命措置は拒否してきっぱりと死んでいきたい。