里見蘭『ギャラリスト』を読む

 里見蘭『ギャラリスト』(中央公論新社)を読む。著名な日本画画廊を経営する父親片瀬幸蔵から引き継いだ洋画の片瀬画廊を経営する片瀬真治が主人公。クリスティーズのオークションに父親の画廊が推している門馬岳雲の大作が13点出品されると知った。日本での岳雲の価格の1/3の安さで。父親に促され岳雲を買い支えるべく父親とニューヨークへ飛ぶ。オークション会場でほかに競争者のいない岳雲の絵を2人で競り上げる。岳雲の値崩れを防いだものの10億円を超える金額を幸蔵はつぎ込んだ。
 そこから物語が始まるが、日本の美術界を舞台に選び、画商間の取引と画家とのやり取り、さらに海外のアートシーンにも関係する展開は、美術界内部の専門的な商習慣などをこれでもかとさらけ出してくれる。画商同士の内輪の交換会という名のオークションの仕組みを私も初めて知った。そういう意味で本書は画商たちの協力を得て、この世界のことをよく調べてあると思う。物語自体もよくできていて、ミステリーを読んでいるような展開で面白い。こんな専門的な内容をよく読み込んで面白い物語に仕立てあげているのは作者の見事な腕だと感じた。
 さて、では本書が「文学」としてどうなのかと考えると、再読しようという食指は動かない。画家を巡って画商同士の愛憎や感情のもつれ、また主人公の成功と転落などが語られるが、それらが大きな「意味」にまで達していない。私はル・カレのスパイ小説を思い出しているのだ。みごとなスパイ小説でありながら、ル・カレの小説は人間の深い場所にまで到達していた。
 そんな硬い読み方なんかをしないで楽しめればいいんだよ。そういう意見が圧倒的だろう。そのことを否定するものではない。ただ私の不器用な読み方は娯楽小説を肯定することができないのだ。お前は昔っから理屈っぽかったよなあ。だから友達が少ないんだ。


ギャラリスト

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