eitoeikoの岡本光博展「マックロポップ」がおもしろい

 東京神楽坂のギャラリーeitoeikoで岡本光博展「マックロポップ」が開かれている(11月22日まで)。これがとてもおもしろい。岡本は1968年、京都市生まれ。1994年に滋賀大学大学院教育学科を卒業している。その後1994〜96年、ニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグに学び、1997〜99年、CCA北九州リサーチプログラムに参加。2001〜04年、ドイツのレジデンスを中心にインド、スペイン等で活動する。2004年以降、沖縄と台湾を拠点に活動し、2007年から京都に拠点を移動している。2012年、アーティスト・ラン・ギャラリーKUNST ARTSを京都に開廊した。
 東京での個展は今回が初めてだが、日本をはじめ世界の美術館の展覧会に参加している。
 岡本は著作権にからむ製品のブランドの根幹に関する怪しさや、文化というものの根源、また社会的な問題などを作品のテーマにしている。一見おもしろおかしい作品ばかりだが、根底には鋭い批判精神がうかがえる。
 作品の脇に貼付されているキャプションを読むとそのおもしろさがよく分かる。ここでは作品の写真とともにそれを再録した。

《Illegal Alien 2》2010
不*家の「ペコちゃん」をパクったスペインのキャラクター「ミス・パロミータ」がモチーフ。スペイン滞在時にスペイン人が自国のキャラだと主張したことをきっかけに、もともと「ペコちゃん」もアメリカの「メリーちゃん」のパクリであったことを知り、その関係性を作品化。《違法異邦人》というタイトルも秀逸ですが、そもそも地域固有と思われている「文化」の背景にもそうした要素が多分に含まれており、文化とはそもそも時間的な垂直軸、世界的な水平軸の交差によって成立するものであることに気づかされます。

《JMP1》1996
日本人が直感的に理解できるデザインや意匠を引用し、日本文化を象徴的に表現したシリーズの1点で、本作は日本の伝統的な配色を「ミニマルアート」として解釈して絵画化したもの。参照されているのは言うまでもなく永谷園の「お茶づけ海苔」。この配色パターンを見ると日本人のほぼ全員がお茶づけを連想するでしょう。本作は岡本がアメリカ滞在時に感じた日本とアメリカの文化的差異から発想されたものですが、グローバリズムローカリズムの問題、そして「アートとは何か」という根源的な問いをここから考察することも可能です。
 出典:「コピーの時代」滋賀県立近代美術館 2004他

《落米のおそれあり》2004 左
《基地あり》2005 右
沖縄滞在時代の作品。交通標識を模した米軍基地および演習、落下の警告看板を作成し、民家の軒先などに設置するプロジェクトより。

 沖縄の国際沖縄大学に米軍ヘリが落下したとき、岡本は沖縄に滞在していた。

《SIX-SEX》2014
6時と18時の一瞬にだけ訪れる至福のとき。食欲はある程度時間的な規制を受け入れ我々は生活していますが、性欲となるとなかなかそううまくは割り切れません。この時計を見ていると、性欲にもまた自己を厳しく律する態度が求められるような気持ちにさせられるし、ぐっと耐えるからこそ、その瞬間の快楽が至上のものになるのかな、などと思ったりもします。

 これはちょっと分かりづらいかも知れない。6時と18時に長針と短針が1本の線になり、するとあるマークが出現する。

《モトグラムRS》2014
LV社のモノグラムの原型といわれる徳川家と島津家の家紋をモチーフに、赤の広場で撤去されたスーツケース型の巨大パビリオンを縮小して再現。

《LIFE Jacket 2》2014
世界の有名生命保険会社のロゴに覆われた「ライフ」ジャケット。まるで耳なし芳一の物語のような「呪術性」についても考えさせられますが、実際に「ライフジャケット」としてきちんと機能するかは、同名の映像作品で検証されていますので(Filmworksの1本として上映中)、あわせて見ていただくことをオススメします。本作は、2015年にパリ日本文化館で開催予定の「器と写」展に出品を拒否されたそうですが、よくよく考えてみれば広告のオンパレードであるスポーツ選手のユニフォームなど下品極まりなく、その担当者の美的判断はある意味で正しいと言えるかも知れません。その意味でもこれ以上ポップな作品は他にそうないでしょう。

 上映中の映像作品では、作家岡本がライフジャケットを着て海に浮かんでいる。
 この他、《まん毛鏡》と称する万華鏡や、三角形のシェイプド・キャンバスにイチゴを散らしたシルクスクリーン作品、実際に存在する覆面パトカーのミニカーがナンバープレートまで正確に再現され展示されている。三角形にイチゴは、内藤ルネ〜サンリオ〜少女らしさの原点のひとつ、などという解説が付されている。少女のイチゴパンツを表しているらしい。
 本展のキュレーターは青森県立美術館の工藤健志学芸員が務めている。
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岡本光博展「マックロポップ」
2014年10月25日(土)〜11月22日(土)
12:00〜19:00(日・月・祝日 休廊)
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eitoeiko
東京都新宿区矢来町32-2
電話03-6873-3830
http://eitoeiko.com/
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