「集落が育てる設計図」という展覧会が興味深い


 東京京橋のLIXILギャラリーで開かれている「集落が育てる設計図」という展覧会が興味深い(4月13日まで)。副題が「アフリカ・インドネシアの住まい展」というもの。集落の正確な図面と、これまた正確な模型が展示されていて、とても魅力的なのだ。それに併せて『集落が育てる設計図』(LIXIL出版)という本も発行された。両者を併せて見るとすばらしくおもしろい。
 展示も出版も東大生産技術研究所の藤井明研究室が中心になって行われている。本書で藤井明がはじめに和辻哲郎『風土』(岩波文庫)を引用して、家屋の様式は風土とかかわりなしに成立するものではない、との和辻の主張を紹介している。しかし、藤井はそれに対して、西アフリカのサバンナの土で作られた住宅群と、インドネシアのスンダ諸島の木で作られた住宅群を取り上げ、同じ風土でも部族によって全く異なる造形を示していることを示してくれる。

 西アフリカのサバンナの景観は比較的単調で、バオバブやアカシアの疎林はあるが、緑豊かな森林はない。地形も起伏が少なく、赤茶けたラテライトの草原が茫漠と広がっている。しかし、集落が登場すると風景が一変する。地となるサバンナの景観は共通であるが、図となる集落には各部族に固有の造形があり、一瞥でその違いが分かる。集落の違いは即、異なる部族の領域に入ったことを意味する。コンパウンドの形態的な差異性は明らかに意図的なもので、他と異なる表現をすることが部族のアイデンティティになっている。

 コンパウンドというのは、西アフリカの複合住宅で、拡大家族に対応した住宅のユニットを言うらしい。
 ついで、インドネシアの木の住宅について、

……貿易風の方向や強弱、乾燥の度合いや植相が少しずつ異なるが、島々の風土的な違いは総じて小さい。しかし、島ごとの集落や住居の差異性は顕著で、スマトラ島やチモール島のように、一つの島に複数の部族が住む場合でも、各部族は必ず一目でその違いが分かる独特な形の集落や住居を造っている。集落景観を部族のアイデンティティと考えていることは明らかで、そこには風土的な要因を凌駕する強力な意図が感じられる。

 本書では、アフリカのグルマンチェ族、ポドコ族、ヒデ族、タンベルマ族、ロビ族、ドゴン族、そしてインドネシアのニアス族、アチェ族、カロ・バタック族、サダン・トラジャ族、スンバ族、アブイ族、バリ族が取り上げられている。それぞれについて、写真と建築パースや平面図で分かりやすく解説されている。アフリカのヒデ族は奴隷狩りを避けるために屋根裏に隠し部屋を作っているし、インドネシアのニアス族では、400mにわたり隙間なくびっしりと家々が立ち並んでいる。


 これらのことはすべて本書に書かれているので、本を購入すれば読んだり見たりすることができるのだが、実はLIXILギャラリーで開かれている展示を見ることを強く勧めるものだ。そこには藤井研究室が作った実に精密で魅力的な立体模型が展示されている。何も考えないでこの模型を見るだけでもとても楽しい。本書と併せて見ればきわめて興味深いだろう。
 残念ながら、この展示は4月13日(土)までだ。ぜひギャラリーへ足を運ぶことをお勧めする。なお、展示の一部はLIXILのホームページでも見ることができる。次のページの一番下の左下に小さくだけど。
http://www1.lixil.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_002260.html
       ・
「集落が育てる設計図 アフリカ・インドネシアの住まい展」
2013年3月6日(水)〜4月13日(土)
10:00〜18:00(日曜祝日休廊)
       ・
LIXILギャラリー
東京都中央区京橋3-6-18 LIXIL GINZA 2F
電話03-5250-6350
http://www1.lixil.co.jp/gallery/


集落が育てる設計図 (LIXIL BOOKLET)

集落が育てる設計図 (LIXIL BOOKLET)