座・高円寺の劇場創造アカデミー1期生修了上演を見て

 東京都杉並区高円寺に「座・高円寺」という劇場がある。これは杉並区立の複合施設で、正式名称は杉並区立杉並芸術会館、2009年に開館した。建物の設計は伊東豊雄、芸術監督は佐藤信だ。施設の開館とともに若い演劇人を育てる「劇場創造アカデミー」を立ちあげた。先週、2年間のカリキュラムを修了した1期生による修了上演が行われた。
 公演はイギリスの劇作家エドワード・ボンド作の「戦争戯曲集−三部作」から第1部「赤と黒と無知」、第2部「缶詰族」が選ばれた。それぞれ1時間と1時間半の芝居。演出は「イクタ ト サトウ」とあるが、これは生田萬佐藤信だろう。佐藤信黒テントの舞台を長いこと見ているし、生田萬はむかし劇団摩呵摩呵の舞台を何度も見た。
 「赤と黒と無知」にはさとうこうじが賛助出演していたのも今回公演を見たいと思った理由だ。好きな俳優なのだ。
 「赤と黒と無知」は難しい芝居だった。戦争に関連するいくつもの状況を短い断片にして描いている。
 「缶詰族」は面白かった。パンフレットの「演出ノート」で、サトウの「缶詰族」の面白さとは? との問いにイクタが答えている。

「缶詰族」とは、全面核戦争後にかろうじて生き残った人々を描いています。10人あまりの孤立した小さなコミュニティーに、13年ぶりに外部からひとりの闖入者がやって来たことから、ドラマはサスペンスフルに展開します。「赤と黒と無知」が"主題"の劇なら、「缶詰族」は"物語"の劇です。で、面白いのは、そのコミュニティーの描かれ方です。人々は、軍事基地の廃墟から膨大な量の缶詰を発見し、労働と生産から解放された生活を送っています。つまり、そこは天国だったのです。核戦争により人類滅亡の瀬戸際に立たされた人々の暮らす天国。なんともダークなエデン! そこにやってきた闖入者は、救世主なのか? あるいは、サタンか? オモシロッ!

 芝居は動きの少ない朗読劇のようなものだった。それだけに饒舌な台詞に圧倒される。核戦争直後の世界を言葉だけでみごとに描いている。悲惨な状況がまざまざと立ち現れる。エドワード・ボンドの優れた言葉の世界! 役者たちもすばらしかった。これが卒業公演とは! しばらく前に見た新国立劇場演劇研修所第4期生の演技にも劣らないと思った。日本の演劇が豊かになっていく。
 さとうこうじが見たくて行ったのだったが、黒テント公演の「メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス」で見た変なキャラクターではなかった。それがちょっと残念だった。

 生田萬はかつて劇団摩呵摩呵を主宰していた。私は当時見た劇団摩呵摩呵の芝居の台本を大事に持っている。1977年発行の第13次行動隊公演台本「月光と硫酸」だ。印刷はガリ版刷り、主演女優は銀粉蝶だったと思う。