朗読劇『ひめゆり』を見る


 新国立劇場演劇研修所公演 朗読劇『ひめゆり』を見る。新国立劇場には付属の演劇研修所(NNTドラマ・スタジオ)があり、舞台俳優の育成をしている。毎年夏に3年生が朗読劇をしていて、昨年までずっと井上ひさしの『少年口伝隊 一九四五』が演じられていた。原爆投下後の広島の3人の少年たちを描いてすばらしい芝居だった。毎年楽しみで見ていた。それが今年は新作を上演することになった。さて、どんなものだろう。
 脚本は瀬戸口郁、構成と演出が西川信廣、第10期研修生12人が出演している。朗読劇だから、みな台本を手に持ってほとんど演技らしきものはしないで、台詞だけで展開していく。
 題名から想像できるように沖縄戦ひめゆり学徒隊の話だ。ひめゆり? 知ってるよ、女学生たちの部隊で大勢死んだんだよね、くらいの印象だった。何も知らなかったことが芝居を見て分かった。
 那覇首里の間の安里駅近くに、通称ひめゆり学園と呼ばれる女学校があった。太平洋戦争の末期、ついにアメリカ軍が直接沖縄を攻撃し始める。日本は制海権も制空権も失い、沖縄は艦砲射撃や戦闘機や爆撃機の攻撃にさらされる。軍はひめゆり学園の女生徒たちを従軍させる。ひめゆり学徒隊として戦場に送り出され、野戦病院で負傷兵の看護にあたらせる。
 アメリカ軍の攻撃の前に日本軍は敗走を余儀なくされる。銃弾が体を貫通し、腕を失い、兵隊が苦しがる。治療のため麻酔なしで腕を切断する。慣れない女生徒たちが手術を手伝わされる。食糧が乏しくなる。砲弾の飛び交う中を、隠れている洞窟から出て水を汲みに行くのも彼女たちの仕事だ。アメリカ軍が上陸してきて、隠れている洞窟が火炎放射機や毒ガスで攻撃される。次々と倒れて行くひめゆりの仲間たち。
 役者たちの演技も演出もすばらしかった。見ていて集中が途切れなかった。沖縄戦で何が起こっていたのか、初めて知った。朗読劇だがそのことをほとんど意識しなかった。とても良かった。むしろ朗読劇だから可能だったのかもしれない。激しい銃撃や飛び交う砲弾を舞台上で表現するのは大変だろう。
 脚本も優れていると思った。ただ、難を言えば、後半ほとんど見ていて休まるときがない。沖縄戦がそうだったのだと言われれば正にそのとおりなのだろう。でも、どこかにスッと気の抜けるところがあれば、緩急があればという無いものねだりがしたくなる。後半終始苦しい場面の連続で、つい『少年口伝隊』だって被爆した少年たちの話だったのに、それでも笑えるシーンがあったのだから、とちょっとだけ言ってみる。
 しかし優れた芝居の初演に立ち会ったことを確信した。そのことを将来誇れるのではないかと思う。『少年口伝隊』の初演も全労済会館で見たことを秘かに誇っているのだから。新百合ヶ丘での公演も見た。どちらもチケットはたったの500円だった。初演では『リトルボーイとビッグタイフーン』と言ったんじゃなかったっけ。