井上ひさし『父と暮せば』リーディング公演を見る


 先の日曜日(4月27日)、井上ひさし父と暮せば』のリーディング公演を新宿の無何有で見た。親八会主催の公演で、演出が藤井ごう、俳優が辻親八渋谷はるか、昆野美和子。会場の無何有は客席数30の小さなスペース。リーディング公演というのは、朗読劇のことで、舞台には大道具もなく、俳優が椅子に座ってただ台本を読むだけ。所作もしないが、まさか棒読みをするのではない。
 『父と暮せば』は数年前宮沢りえが主演した黒木和雄監督の映画を見たことがある。それも感動したが、映画と芝居は違うものだと分かった。とくに今回はリーディングだったから尚更だ。やはり映画は自然な演技が求められるのに対して、芝居ではやや誇張した演技が要求されているようだ。
 私はmix仲間のぼのぼのさんの書き込みで本公演を知った。彼は土曜日に見て絶賛していた。ぼのぼのさんの書き込み。

親八会『父と暮らせば』素晴らしかった。リーディングでここまで胸を震わせたのは多分初めて。実は『父と暮らせば』は映画も芝居も見たことがなく、これが初体験。あの戯曲が持つ力、言葉が持つ力に打ちのめされた。文句無しの名作だ。 (中略)
しかしリーディングだけで、これだけ聞くものを感動させたのは、辻親八渋谷はるか、二人の熱演によるところが大きい。特に渋谷はるかは、死者たちの霊が宿っているかのようなオーラに満ちていた。今後これを持ち役の一つにして欲しい。

 小さなスペースで前から2列目だったので、役者は数メートル先で叫んでいる。もうすごい迫力だった。井上ひさしの台本のすばらしさを強く実感した。また役者も良かった。小さな小屋でリーディングだからと実はそんなに期待していなかった。とんでもないことだった。暗い客席だったけど涙が流れた。井上の台本と役者の力だろう。
 最後に挨拶があり、辻親八がこの芝居を高校生に見せるつもりだと言っていた。舞台装置が最小限で済むリーディング公演なら全国どこへでも手軽に持っていけるだろう。大変良い企画だと思う。
 井上ひさしのリーディング公演は、去年の新国立劇場での『少年口伝隊一九四五』に続いて2本目だ。台本のすばらしさがリーディング公演でも全く不満を感じさせない。とてもとても良い観劇体験だった。
 少し補足を。ぼのぼのさんは年間数十回芝居を見ているという芝居の見巧者だ。だが『父と暮せば』は映画を含めて初めて見たという。その見巧者のぼのぼのさんが、幽霊は娘の方だと思っていて、父親が幽霊だと気づいたのは芝居の途中からだったという。私はすでに映画を見ていたので、誤解することはなかった。たしかにリーディング公演で初めて見るのなら分かりづらいかもしれない。演技や衣装を伴えば誰が幽霊かは間違えないだろう。井上はリーディング用に書いてないので、そのあたりが不親切になってしまったかもしれない。ほとんど初見だろう高校生が相手なら、その辺の工夫も必要ではないだろうか。