朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』を読む

  朝井リョウ桐島、部活やめるってよ』(集英社文庫)を読む。先月、大塚英志の『感情化する社会』を読んだら、『桐島、部活やめるってよ』がスクールカーストを扱ったものだと書かれていた。スクールカーストって何だろうと思って手に取った。高校2年生の世界が舞台で、カッコ良かったりスポーツができたり成績が良いヤツが上位のカースト、ダサイヤツ、モテないヤツ、成績の悪いヤツなどが下位のカーストに分類されている。
 5人の登場人物の主観で各章が組み立てられている。上位に属する者も下位に属する者も取り上げられているが、基本的に上位者の視点で書かれている。本書で下位の典型として取り上げられているのは映画部の少年2人だ。彼らは彼女もいないし、上位の美少女たちからはバカにされている・。普通小説の主人公になるのは、彼らのようなチャラくない表現者の卵たちだ。それが本書ではカッコ良い外見を大事にしている連中が主役を張っているように見える。
 ただ、菊池宏樹という野球部のカッコ良い男の子が、彼女から今日親が出かけていていないんだと家に誘われ、校門のところで待ち合わせる約束をするが、撮影をしている映画部の姿を見て「ひかり」を感じる。菊池はさぼっていた野球部の練習に参加すべく校門と反対方向に歩いていく。おそらくこの少年が作者の分身なのだろう。
 朝井がこの作品を書いたのが19歳だったという事実に驚く。2年前の経験をみごとに定着しているその才能に。だがスクールカーストの上位を描くという選択は、読者に強い共感を抱かせないのではないか。小説作品としてはいまいちだと思う。これを原作にした映画が撮られている。私のmixi友だちの「ぼのぼの」さんは映画と芝居をそれぞれ年間数十本も見ている見巧者で、私はしばしば彼の意見を参考にしている。そのぼのぼのさんが、この映画を極めて高く評価していて、もう何度も見たという。たしかに映画の原作として優れているだろうと思う。小説より出来が良いのではないだろうか。今度DVDを借りてきて見てみよう。


桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)