日本の建前社会

 全農(全国農業協同組合連合会)が長年使用してきた「協」をデザインしたマーク(農協マーク)を、新しい「JA」マークに変えたとき、マークの色も金赤(黄ベタ+赤ベタ、イエロー100%+マゼンタ100%)からモスグリーンに変更した。農協系統のメーカーは自社商品に農協マークを使ってきたが、JA マークに変えた後も慣れ親しんだ農協マークの金赤へのこだわりを捨てがたかった。それでメーカーの担当者が全農へ赴き、JAマークを金赤で印刷したらいけないかと尋ねた。
 全農の担当者の答は「質問されたら、ダメですと答えざるを得ません」だった。勝手にそうするのなら見逃しますという意味だろう。
 日本の建前の論理が現れている例だ。以前、この建前について「子供の頃の印象に残っている文学やマンガ」でも触れたことがある。以下の通りだ。

 もう一つ、今度はマンガの赤胴鈴之助で、赤胴が他流試合をしてしまって千葉周作から破門される。もう一度試合があるが、赤胴は迷いがある、千葉先生に教えを請いたいが破門されている身で会うことができない。その時友だちがアドバイスしてくれる。先生の部屋の外から声をかけて旅の者ですが教えて下さいと言えば、先生は障子を閉めたままで教えてくれるだろう。そしてその通りになった。

 千葉周作も声で赤胴だと分かっている。しかし顔を見たわけではないので、知らなかったと他の門弟に言い訳ができる。この時、大人の建前を知ったのだった。