素人と専門家

 西山伊三郎著「身近な野草を鉢植えに」(農文協)は副題を「草もの盆栽のすすめ」といい、草もの盆栽作りの指導書だ。私もお世話になっている。この一章に「タマゴケ・スナゴケ」があり、コケの栽培法として次のように書かれている。

 きめが細かなコケを生わすには、採取したコケを陰干しして粉にし、これを表土にまく方法をおすすめします。

 これを千葉県立中央博物館のコケの専門家に見せて意見を聞くと、このやり方はある種のコケ(名前失念)に有効な特殊な方法で一般的ではないとのこと。私は採取したコケの土を洗い、薄くしたコケを鉢に貼って糸などで固定している。その方がいいと言われた。草もの盆栽の専門家もコケの栽培に関しては素人だった。
 ではその反対の例を一つ。自宅で広くバラを栽培し、武蔵野薔薇会の理事をされている主婦が、ある年見慣れない害虫に薔薇の蕾を食い荒らされ、ヨトウムシやハスモンヨトウに効果があった殺虫剤が全然効かないので自分で徹底的に調べた。その害虫の卵はヨトウムシなどと違って、卵を塊で産まずに1個1個蕾の近くに産むことを発見し、その卵を採取し徹夜して孵化を観察、明け方孵化した幼虫はすぐに蕾に食入すること、幼虫は蕾を食い荒らしては次の蕾に移っていくことなどをきちんと調べ上げた。
 この見慣れない害虫は西から東漸を続けていたオオタバコガであって、公立の農業試験場の研究者もバラの被害をここまで掌握していなかった。素人が専門家を凌駕していたのだ。