川村記念美術館のバーネット・ニューマン展を見た

 千葉県佐倉市川村記念美術館でバーネット・ニューマン展を見た。川村記念美術館は印刷インクのDIC株式会社が経営する美術館で、DICの総合研究所の敷地の一角に建てられている。フランク・ステラの作品の収集では世界でトップクラスと聞いた。マーク・ロスコの部屋もある。
 バーネット・ニューマンは日本での知名度こそ低いものの、戦後アメリカの抽象表現主義の画家たちのなかでは最も中心的な画家だという。日本ではジャクソン・ポロックマーク・ロスコ、アド・ラインハートなどが有名なのだが。
 そんな理由でか、これまで日本ではバーネット・ニューマン展は開かれて来なかった。初個展とあっては行かなければと遠路はるばる行ってきた。JR総武本線佐倉駅へ降りると無料送迎バスの乗り場がある。1時間に約2本、片道20分と結構遠い。
 さて、バーネット・ニューマン展である。メインは「アンナの光」縦274.3cm、横609,6cm、ほとんど一面赤で塗られ、左端に数cm白が、右端に30cmほど白がある。それ以外滑らかな赤一色。赤い壁の前に立った感じだ。ほとんど圧倒される。

 朝日新聞9月15日の夕刊に西田健作が展評を寄せている。

 巨大な「アンナの光」の前に立つと、赤い光に包まれるような感覚に。ここでは両脇の色帯ではなく赤い画面が絵の主役だ。同展を担当した前田希世子学芸員は、「はけ目がわずかに残り、赤にざわめきがあるように見える」と指摘する。ローラーで均一に塗らず、あえて幅20cmほどのはけで塗っているとみる。

 その他、「存在せよ I」というタイトルのえんじ一色で中央に細い白線が縦に引かれているもの、それから単純な色面に縦の線が引かれている油彩が数点あった。それに初期のシュールレアリスム系の作品が4点、「詩篇」と題されたリトグラフが18点、鉄の立体が1点。
 ニューマンの特徴は巨大画面が単色で塗りつぶされているものだ。それは「アンナの光」1点だけだし、これは常設で見ることができる。日本初の個展というにはいささか寂しくはないか。
 しかし、初期のシュール系の作品が見られたのはある意味で収穫だった。その4点は本当につまらなかった。ここで宇佐美圭司のニューマン評を思い出す。

 しかしふと視点を変えてみれば、これは単純な絵だ。その単純さは、何かある作業の準備段階のようなようなものであろう。タイトル(サブライム=崇高)に引き寄せられてこの画面にサブライムを喚起されるのは裸の王様を見ているような気がするーーと思い出せば英雄も崇高もこけおどしに思えてしまう。(中略)
 ニューマンは巨大さの上にさらにサブライムという概念を賦与して、モンドリアンの到達点をさらに一歩おし進めようとしたのだ。絵を描く仲間としてモンドリアンの厳格な垂直と水平線だけの構成の作品にも、私には消しがたく溶けていく木や、光の内に分解していく風車が透けて見える。しかし、ニューマンには幸か不幸かそのカラーフィールドと垂直線の絵の前史に、貧弱なわずかの水彩画しかない。彼はほとんど縦縞(ジップとも言う)しか描かなかった。

 ニューマンは貧弱な水彩画のほかに、貧弱なシュール系の絵画を描いたことが分かった。ニューマンに関しては宇佐美圭司の評価に異を唱えることはない。しかし、ニューマンの巨大な色面の作品を多数見てみたいという欲求は消えていない。東京国立近代美術館あたりで、ぜひ実現してほしい。東京都現代美術館でもいいのだが。
 さて、ニューマン展に苦情を呈したが、川村記念美術館は常設展が充実している。周囲の壁面に7点の作品が並ぶロスコの部屋や、ステラの作品が9点並んだ部屋がある。ほかにも、レンブラントルノワール、モネ、ブランクーシシャガール、マレーヴィッチ、エルンスト、ポロック、カルダー、ウォーホル、コーネル、モホリ=ナジ、フジタ、ピカソ、ボナール、キスリング、モーリス・ルイス、ラインハルト、アルバース、エンツォ・クッキなどの作品が並んでいる。またさらに芦雪や橋本関雪もある。
 素晴らしい美術館であることは確かだろう。交通の便がよければ何度も足を運びたい場所だ。


川村記念美術館
千葉県佐倉市板戸631
電話0120-498-130
http://kawamura-museum.dic.co.jp

2010年9月4日(土)ー12月12日(日)
休館日:月曜日(祝日と重なった場合は翌日火曜日休館)
9:30−17:00(入館は16:30まで)