練馬区立美術館の「浜田浄の軌跡−重ねる、削る絵画ー」を見る


 東京練馬区練馬区立美術館で浜田浄展が開かれている(2016年2月7日まで)。浜田は1937年高知県生まれ。1961年に多摩美術大学油科を卒業している。1964年、東京杉並区のおぎくぼ画廊で初個展、以来数多くの個展を開いている。
 作品の多くは合板に絵具を塗り重ね、それを彫刻刀などで彫り=削り、その凹面に絵具を塗り、彫られていない凸面に別の色の絵具を塗っている。画面は木版画の版木のような凹凸で構成されている。一見ミニマル・アートを思わせるが、画面は無機的ではなく、表情を持っている。だが中心はなく均質な画面が広がっている。
 また紙に鉛筆で描いたドローイング作品も展示されている。それはただ画面が鉛筆で塗りこめられているように見える。しかし筆触(というのか)は見えない。普通の鉛筆を使って、短いストロークで線を描き、それをほとんど無限に繰り返し重ねて鉛筆の面を作っている。表裏に描きこんだ作品もある。すると、鉛筆のドローイングが鉛筆の面を作り、それは鉛筆で作られた物質に昇華しているように思える。いわゆる弁証法でいう量から質への変化が起こっている。そのように言うと概念的な作品にみえるかもしれないが、作品自体としてきわめて美しい。見事な出来栄えだ。
 美術館のホームページのテキストでは、

浜田浄(はまだ・きよし)は、アクリル絵の具、鉛筆などを用いた抽象的な絵画を発表し続けている作家です。絵具をのせた画面をカッターナイフでえぐったり、紙を一寸の隙なく鉛筆で塗り込めたり、絵画へのアプローチの方法を追求するその姿勢は、現在もなお途切れることなく更新されています。

 美術館には様々な浜田の作品が並んでいる。赤い色鉛筆を使って画面を塗り込めた作品が美しい。しかし何と言っても圧巻なのは、一番奥の部屋に並べられている「13B」と題された4枚のパネルで構成された横長(左右5mほど)の大きな赤い作品だ。浜田の代表作と言ってもいいのではないか。私はバーネット・ニューマンの「アンナの光」を思い出したが、赤一色で平滑に塗られ左右に白い帯を置いたニューマンの作品が、巨大であることと概念的な作品であることに比べ、この浜田の作品が複雑なマチエールを持ち赤色の微妙に変化する表情から絵画作品として遙かに豊かなものではないかと思えるのだ。

 展示室の床には黒い鉛筆の大きなドローイング作品が置かれていた。それが少々狭い床に置かれていて、本来の存在感が削がれているように感じられたのが残念だった。広い空間に一つだけ置かれればその斬新な存在が際立ったのではないか。

 ともあれ、浜田浄という重要な作家の全貌が垣間見られる回顧展になっている。多くの人に足を運んでほしいと思う。
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浜田浄の軌跡−重ねる、削る絵画ー
2015年11月21日(土)ー2016年2月7日
10:00−18:00(原則月曜日休廊)
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練馬区立美術館
東京都練馬区貫井1-36-16
電話03-3577-1821
http://www.neribun.or.jp/museum.html