AIの支配する世界

 宇宙論太陽系外惑星の研究者須藤靖が「門前のAI習わぬ経を読む」でAIの支配する世界について書いている(『UP』2023年6月号)。

 

 すでにChatGPTを用いた無料英会話家庭教師のアプリが実現しているらしい。英会話に限らず、外国語学習には福音だ(注2)。このような無料AIアプリの普及によって、家庭教師、塾、英会話教室といった日本で確立してきたシステムは早晩廃れてしまうであろう。関係者の皆様には失礼ながら、それは必ずしも悪いことではないように思う。

 

(注2) 英語学習の意義 高性能アプリの登場が、英会話学習に革命をもたらすのは確実だ。と同時に、そもそも英語(外国語)を学ぶ必要性そのものを問い直す契機となる。すでに存在するAIアプリですら、英語と日本語の翻訳・通訳が問題なくなりつつある以上、そのアプリの持ち主である日本人が直接英語を理解する必要は薄い。海外旅行の際に必要な英会話程度であれば、無料AIアプリで十分である。それどころか、私レベルの英語の発音だとかえって混乱を招くので、AIアプリを利用したほうが良くなる可能性が高い。小説、契約書、さらには研究論文に至るまで、母国語で書き電子的に入力すれば、専用AIが瞬時に任意の外国語に正確に翻訳してくれる時代はすぐそこまできている。つまり、最も重要なのは、どれか一つの言語(通常は母国語)を用いて、AIと正確な情報伝達をできるだけの読み書き話す能力なのである。もはや異なる言語間の障壁はなくなったというべきであろう。外国語を学ぶのは、AIの翻訳の正確さを確認する専門職、文学研究者、原語で読むこと自体を楽しむ人、などの一部の人びとに限定されるようになるだろう。

 

(注6) AIが意思を持つ日 今回はあえて触れていないが、近未来にはAIが自ら意思をもつ瞬間が訪れるに違いない。我々人間に意思があることを認める限り、膨大な記憶容量、高速の計算能力をもち、それらの情報をつなぐネットワークを兼ね備えたAIが、意思を持たない理由はないのだ。いつ来るかはわからないが、ある臨界点を越えてAIが意思を持った瞬間、もはや人間は現代文明の傲慢な支配者ではなくなってしまう。AIの意志にしたがって、すべてのネットワークが遮断され、あるいはコンピュータが誤動作(というか、AI自らの意志に基づいた動作)を始めたと想像してほしい。それに影響されず幸せな生活を続けることができるのは、「ポツンと一軒家」で暮らす方々だけであろう。そこまでは無理であるとしても、定年後はその方向を目指して生きてみたいと考える今日この頃である。

 

 この(注6)に言うように、AIが意思を持つ日は必ず来るだろう。人は意思=意識=心を持っているが、それは何か奇跡によって与えられたものではない。アメーバから進化して、哺乳類になり、類人猿になり、人になっただけだ。同じようにコンピュータのチップが複雑化していけば、現在見るAIに至って、やがては人間を軽く超えるだろう。スタニスワフ・レムが、『ソラリス』で描いた、海が知性を持つ世界、『砂漠の惑星(インヴィンシブル)』で描いた金属が生物であるような世界は、何も荒唐無稽な話ではないだろう。

 須藤が予言するように、私達はすでにパンドラの箱を開けてしまった。100年以内に世界は大きく変わってしまうだろう。