ハルノ宵子『それでも猫は出かけていく』を読む

 ハルノ宵子『それでも猫は出かけていく』(幻冬舎文庫)を読む。ハルノ宵子は吉本隆明の娘で作家の吉本ばななの姉、漫画家。ハルノは両親と3人で住む一軒家で多くの猫と暮らしていた。しかし、「家猫」は数匹で、多くは餌をもらいに家の中まで入ってきたり、外の餌箱に来たりする「軒猫」と外猫で、そのほか毎夜1時間ばかり自転車で見回りに行ってノラ猫たちに餌をやっている。猫たちが家に辞意夕に出入りできるよう、夏も冬も窓は開けっぱなしにしている。

 外猫のメスは見つけ次第避妊手術をし、けがをしたり病気の猫は保護をして動物病院へ連れて行っている。餌やりでノラ猫が増えるという批判には、避妊を続ければ出産する猫が減って、その地域が避妊した雌猫ばかりになれば雄猫は他の場所に出ていくという。

 しかしハルノのすごいところは、墓地で拾った仔猫が動物病院で診てもらったら重い障害をもっていることが分かった時に家猫として面倒をみることにしたこと。その白い美猫シロミ雌は、「馬尾神経障害」を患っていて、一生、尿が膀胱に溜まりっぱなしで、すぐに細菌感染し、尿毒症や腎不全を起こす、排便もうまくできない。尿を漏らし続けるので、おむつを当てることにする。それでも室内のあちこちにおしっこや糞を垂れ流す。そのシロミと何年も暮らしている。

 さらに様々な猫たちの問題が持ち込まれる。ハルノは来る猫は拒まないし、去っていく猫は追いかけない。しかし軒下に住み着いた猫が交通事故にあって死ねば隣の寺の墓地へ(夜中に)葬ってやる。ビルの屋上に上って降りてこられない猫のためには、危険を冒して助け出す。寺の高い鐘楼の屋根に昇って降りられない猫のためには消防署に頼んではしご車を出して助けてもらう。

 猫たちには近所の猫たちが夜中に集まる「猫の集会」があることが知られている。ハルノはその集会にもボスとして参加している。

 父吉本隆明は「フランシス子」と名付けた雌猫と相思相愛だったという。17歳の高齢で死んだフランシス子は吉本隆明にだけ深くなつき、吉本もフランシス子をひざの上に置き、時には一緒に眠ってしまった。フランシス子の死から9か月後吉本隆明が亡くなった。この年、ハルノは乳がんの手術を受け、さらに母も亡くなった。

 本書は雑誌『猫びより』に8年間50回にわたって連載されたもの。毎回興味深いエピソードと猫のイラストで構成されている。しかしそのエピソードは、猫たちの生態を詳しく伝えており、猫を知るための優れた教科書にもなっている。漫画家だけあって、猫のイラストも正確で見ていて飽きない。

 猫好きの人たちにぜひ読むことを勧めたい。