伊藤俊樹『モンゴルvs.西欧vs.イスラム』を読む

 伊藤俊樹『モンゴルvs.西欧vs.イスラム』(講談社選書メチエ)を読む。これがすさまじい内容だった。もう15年前に発行されて評判だった本らしいが、うかつにも知らなかった。すさまじい内容というのは、13世紀のモンゴルのイスラムや西洋への侵略を描いていて、モンゴルは連戦連勝でロシア、中近東を破壊尽くし、ヨーロッパもポーランドハンガリーまで攻め上る。征服した街は男を皆殺しにし、女子供も虐殺している。女子供を奴隷にしたのは手加減している事例に属するくらい。もう50年以上前に受験勉強の足しにと中央公論社だったかの『世界の歴史』全集を読んだとき、13世紀のモンゴルの侵略が書かれていて、殺戮オンパレードで強く印象に残っている。だから一応免疫はあるつもりだったが、予想以上の残酷さんだった。
 著者はフランス中世史が専門の学者で、なぜこの本を書いたのかと思ったら、中世の国際語はフランス語で、当時の様々な文献がフランス語に翻訳されていたのだという。だから50年前に読んだモンゴル侵略史とは比べ物にならない正確な歴史が、事件の起こった日時までもが記録されている。
 モンゴルは連戦連勝で西欧に迫るが、大汗オゴタイが亡くなって一時兵を引いたり、モンゴルの内部分裂があったりし、イスラムの反撃にあったりして3者3すくみの状態になり、結局西欧がモンゴルの支配下に陥ることを免れた。
 それにしてもモンゴル軍の虐殺はすさまじく、人間の残虐さは人間の本質なのではないかと思ってしまう。モンゴル軍はタタールと呼ばれたりフン族と呼ばれたりした。本書に言及はなかったが、フィンランドハンガリーもモンゴルの支配を受けていた時代があって、「フィン」とか「ハン」の名前が残っているのだろう。どちらも「フン」から来ている。
 司馬遼太郎もロシアの対外不信は過去のモンゴル軍の残虐さの記憶によるものだと書いていた。
 最初から最後まで残酷な戦争が連続し、人間の本性を認識するためにも必読書ではないかとまで考えた。優れた仕事だと思う。