山口晃『すゞしろ日記 参』(羽鳥書店)を読む(見る)。山口は東京大学出版会のPR誌『UP』にこのタイトルで毎月マンガを連載していて、もうそれが今月5月号で158回になっている。つまり13年間続いているのだ。それを50回ごとに単行本にまとめている。本書はその第3号となる。『UP』はA5判の小型の雑誌でその1ページだけのマンガで、だいたい24コマくらいで構成されている。テーマはほとんど山口画伯の日常で、本人と奥さんが主要な登場人物になる。それがけっこう面白い。私は初回から毎号欠かさずに見ている。雑誌が届くとまず「すゞしろ日記」を見て、ついで佐藤康弘の連載「日本美術史不案内」を読み、不定期連載の須藤靖「注文の多い雑文」を読む。
山口は絵が巧い。ここに載せた2枚の絵は天地7センチと天地5センチの大きさだが、誰を描いているかよく分かる。山下裕二と藤森照信だ。少ない線でよく特徴をとらえている。
1ページ全部を紹介したNo.143は、山口が『BRUTUS』の取材で訪れたセザンヌのアトリエの印象が語られている。それがとても興味深い。セザンヌのアトリエは窓が東西に開いていると山口は驚いた。
驚いたが、中期以後の彼の作品を見れば、この窓位置は大いに頷ける。「うわ、物凄くくっきり見える!!」光が空間を彫り込むようだ。
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例えば彼のりんごの絵に於ける、側面から背後への回り込みの描写
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輪郭をはさんだ「物」と「その背景」との取っ組み合いから生まれる画面内での空間性にシビれる。
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彼の絵には、目で追ってゆける生理的な奥行きがある。彼の絵を見た後で困るのは、他の多くの絵が、画布1枚の平べったさに見えてしまうことだ。
さすが、『ヘンな日本美術史』(祥伝社)で小林秀雄賞を受賞した人の言葉だ。私もわが師山本弘の絵を見た後は、他の多くの絵がつまらなく見えてしまうのでこの感想に同意できる。
- 作者: 山口晃
- 出版社/メーカー: 羽鳥書店
- 発売日: 2018/02/07
- メディア: 単行本
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