野見山暁治『続々アトリエ日記』が楽しい

 銀座5丁目のナカジマアートで「野見山暁治の墨絵展」が開かれている(5月23日まで)。数年前に外苑前にあった永井画廊で開かれた墨絵展と異なり、今回はとても良い。来場した画家たちの何人もが同じ意見だった。
 会場で出版されたばかりの野見山暁治『続々アトリエ日記』(清流出版)を買った。本書は、2003年9月から始まった雑誌『美術の窓』に連載された日記を、2年半くらいずつまとめて『アトリエ日記』『続アトリエ日記』としたものの3冊目。前回のようなオレオレ詐欺に騙されたような劇的な事件はないが、野見山先生の日々が具体的に綴られていく。こんなに忙しくていつ絵を描くのだろう。でも野見山ファンには楽しい本だ。

(2008年)12月6日
 大川美術館の館長が亡くなったと連絡があった。まずいことに入院中の彼と、ぼくは電話で喧嘩した。声が出なくても吼えたてる。ぼくも、手をゆるめなかった。近頃こんな一途な男は珍しい。ぼくは好きだった。
 だいたい自分で作品を集めて、個人で美術館と称している人物は、どこかうさんくさい。このくさみには敬意を払っていい、奇妙な情熱だ。

(2009年)7月2日
 夕方6時から、近代美術館でゴーギャン展のオープニング。画面には、鳥から犬から馬、えたいの知れない生きものがうごめいている。よく見るとゴーギャン、下手クソ。いったいに日本人の絵は上手だ。上手でツマラナイというのはどういう訳。

 2010年10月24日には、相模大野の女子美三岸節子についての公開座談会があり野見山先生も出席する。

 僅かな金しかなくて、ぼくがパリのモンマルトルの坂道でお土産絵を描いていたとき、あれは秋も深まった頃だと思うが、三岸節子が通りかかって、夜、御馳走してあげるから、もう仕事はおしまいになさいよと、彼女の車で賑やかなサンゼルマン・デ・プレのキャフェに、連れていってくれた。女の艶やかさがあって、ぼくはほのかな恋情を抱いたものだ。
 今日の座談会、三岸節子の年譜に眼を通して、ぼくより15歳上だと知った。ぼくが32、3の頃の話だから、彼女は、いやあ最後の女盛りだ。

 そうなのか、32+15=47だから、40代後半が最後の女盛りということなのか。いやあ、私くらいの年になれば、50代も魅力的だと思う。友人の池田君なんか70代の恋人がいるし。
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野見山暁治の墨絵展
2012年5月10日(木)〜23日(水)
11:00〜18:30(会期中無休)
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ナカジマアート
東京都中央区銀座5-5-9 アベビル3階
電話03-3574-6008
http://www.nakajima-art.com/


続々アトリエ日記

続々アトリエ日記