朝日歌壇の「せつ子」の短歌

 2012年4月12日の朝日新聞の朝日歌壇に馬場あき子と永田和宏が採った短歌。作者は群馬県の酒井せつ子さんという人。


せつ子来るせつ子もう帰る吾の名の飛び込んでくる亡母(はは)の日記帳

 私も母の亡くなる前の2年間ほどは毎月母の入っている田舎の施設を訪ねていた。初めはよく知っている母だったのに、徐々に徐々にはるか遠くへ行ってしまった。それでも途中までは、もう帰るのかと切ながった。正好が来てくれたと喜んで、もう帰るのかと悲しがった。しかしいつも早々に帰ってきてしまった。母は文字に縁のない人だったので、日記を書くことなどあり得なかった。でも、もし日記を書いていたら、せつ子さんのお母さんと同じことを書いていただろう。母さん、ごめんな。
 しかし、いま娘と二人で暮らしていて、娘が何をしても許すことができると思う。だから母も親不孝な息子を許してくれただろう。今日は母の祥月命日、亡くなって2年がたった。
 朝日歌壇はいつもありふれた日常詠が多いけれど、時々小石の中に玉が転がっている。