『猛スピードで母は』を読む

 長嶋有『猛スピードで母は』(文春文庫)を読む。佐野洋子のエッセイを読んでいると、古道具屋ニコニコ堂のやる気のなさそうな主人が何度も出てくる。佐野はそのやる気のなさ加減が気に入っているようでもある。ニコニコ堂の息子がユウ君と言って、運転手をしてくれたりもする。そのユウ君が小説を書いて、芥川賞ももらった。長嶋有だった。
 佐野つながりで長嶋有『猛スピードで母は』を読んで見た。「サイドカーに犬」と二つの中篇小説が収められている。「サイドカー〜」は母が家出をし、残された父と私(小学生の女の子)と弟が暮らしていたところへ父の愛人らしい女性が加わって変な共同生活が始まる。さらに父の仲間たちも入って麻雀に明け暮れ、また怪しい商売を始める。
 「猛スピードで〜」では主人公の男の子は両親が離婚し母親と暮らしている。母は息子に次々と男友達を紹介するが、なかなか結婚にまで至らない。昔ガソリンスタンドに勤めていたこともある母は車の運転が乱暴で、猛スピードで他の車を追い抜いたりする。
 どちらも主人公が小学生で、事件を起こすのは父や父の愛人、または母だ。主人公は事件の当事者ではなく、傍観者に近い立場だ。その設定がさまざまな事件が起こっても、どこか切羽詰まったところから距離を置いているような印象を受ける。そんなところが、少し保阪和志を連想した。
 佐野洋子が書いていたやる気のなさそうなニコニコ堂の主人、即ち長嶋有の父親に通じるものがありそうだった。


猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)