西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』を読む

 西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(角川文庫)を読む。西原が育った高知県の漁師町は貧しい町で皆が貧乏だった。だから誰も自分が貧しいと嘆かなかった。皆同じだったから。母は父と離婚して両親の住むこの町に越してきて自分が生まれた。祖父母に可愛がられて幸せだった。
 母が再婚して別の町に引っ越した。新しい父は私を可愛がってくれたけれど、バクチが好きで夫婦喧嘩が絶えなかった。母の稼いだお金を持ち出してバクチですっていた。
 殺伐とした町で子どもたちも先を争って「不良」になった。万引をしシンナーを吸っていた。西原は高校生のとき、酒を飲んでいたという理由で自主退学を勧告された。父のアドバイスで学校を相手に裁判を起こす。結局和解でケリをつけ退学を受け入れる。母が高校中退を気にして大学受験を勧める。その美大受験の日、父が自殺する。
 しかし母はやっぱり大学へ行けと、家中のお金を集めて140万円しかなかったのに100万円を渡してくれる。東京の予備校に通いながら出版社にイラストの売り込みをする。晴れて美大に入学してもイラストの売り込みは続けていた。そんな中でイラストの仕事が確実に増えていく。マンションの一室を購入する。
 そこで麻雀に徹底的にのめり込む。西原がギャンブルをやめることができたのは戦場カメラマンだった「鴨ちゃん」に出会ったからだ。鴨ちゃんと結婚し貧しいアジアの国々に連れて行ってもらった。しかしFXに手を出してしまう。外国為替の変動を利用した金融商品だ。アトリエつくるために用意した1千万円があっというまに消えた。
 鴨ちゃんは私と結婚したあとアル中になってしまった。彼の父親もアル中で、「負のループ」だったと西原は書く。鴨ちゃんとはいったんは離婚したが、アルコール依存症を克服してまた家族のもとに帰ってきた。半年後に末期ガンで亡くなるまで、はじめてのあたたかな家族との暮らしだった。
 西原はアジアの貧しい国々へ行って、人身売買や、とんでもなく苛酷な労働条件のもとで働いている子どもたちを見てきた。西原は言う。お金には家族を嵐から守ってあげる力もある。そう思うなら働きなさい。働いて、お金を稼ぎなさい。そうして強くなりなさい。それが大人になるっていうことなんだと思う、って。
 すごい人生を生きてきた西原の言うことは人を説得するものがある。アクの強い西原のマンガや主張を嫌う人も多いけれど、意外とまともで真っ当なことを言っているのではないか。若い人にぜひ読んでもらいたい。

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (角川文庫)

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (角川文庫)