久しぶりに吉行淳之介「懐かしい人たち」を読んで

懐かしい人たち (ちくま文庫)
 吉行淳之介「懐かしい人たち」がちくま文庫で再刊された。単行本は1994年4月に出ているとある。そうすると吉行が亡くなった年だ。吉行淳之介はこの年の7月に亡くなった。わが師山本弘の東京での初めての遺作展がこの年の7月11日から東邦画廊で開かれ、針生一郎さんが読売新聞にその推薦文を書いてくれた。担当記者の芥川喜好さんから、それが遺作展最終日3日前の水曜日の夕刊に掲載されると言われていたのだが、吉行淳之介が亡くなってその追悼の記事が掲載され、針生さんの文章は翌木曜日の夕刊になったのだった(id:mmpolo:20061009)。遺作展の会期があと金土の2日間しかないと画廊で残念がっていたからよく覚えている。
 23年ぶりに「懐かしい人たち」を読み返したら何編か覚えていた。忘れていた方が多いが。これは吉行が交友のあった32名の文学仲間のことを書いている。この時点ですでに亡くなっている人たちだ。
 その一編「石川淳氏との一夜」から。

 内藤陳というボードヴィリアンがいる。かつて、「ハードボイルドだどお」という言葉を大いに流行させた人物である。昭和56年に日劇ミュージック・ホールが移転のため閉館になるときの記念興業があるが、その最後の舞台に登場するコメディアンとして選ばれている。昔、私はこの小劇場にはずいぶん通ったものだし、引退したアンジェラ浅岡とか、いまのトップスターの松永てるほなど顔馴染だし、そのときには花束でも持っていこうかともおもっている。

 このくだりを読んで懐かしかった。アンジェラ浅岡も松永てるほも知っている。今でも彼女たちの顔を思い出せる。アンジェラ浅岡は浅黒い肌の目の大きい好みの子だった。もちろん彼女たちは私のことなど知らないが。ここはいわゆるレビューで、上半身裸の踊り子たちがエロチックなダンスを見せてくれる。私はカミさんまで連れて行ってカミさんに喜ばれている。