村上春樹『TVピープル』(文春文庫)を読む。1989年ころの雑誌に発表した短編集。当時村上春樹40歳くらい。
「TVピープル」「飛行機」「われらの時代のフォークロア」「加納クレタ」「ゾンビ」「眠り」の6編が収録されている。
「飛行機」は昔で言う有閑マダムとの情事、それを彼のひとりごとを言う癖をメインに物語っている。
「われらの時代のフォークロア」は春樹の同い年の主人公(1949年生まれ)の彼女との性的交流の話。愛し合っていながら彼女が処女性にこだわりsexをしないまま別れた。これを読んで昔世話になったキドさんのことを思い出した。キドさんはハンサムで女性社員たちにもてた。ある時キドさんを接待した。ずっと昔、佐多稲子が女中をしていた上野の料亭「山下」でキドさんに聞いた。キドさん、もてたでしょう。ソネハラさん、あんたに悪いけど俺はもてたよ。でも素人とやったのはカミさんが初めてだった……。つまりそういう時代だったのだ。A・・さんやK・・さんはそうじゃなかったみたいだけれど。
「眠り」は何日も眠れない女性の話。夫がおり子供もいるのに何日も全く眠れないし、その長期間の不眠による体調の不調もない。
総じて不思議な出来事が不思議なまま、伏線が回収されないミステリのような印象。もしこの短編集が村上春樹の処女作だったら、もうどこの出版社からも声がかかることはなかっただろう。まあ、誰しもスランプはあるのだけれど。