木田元『現象学の思想』を読む

 木田元現象学の思想』(ちくま学芸文庫)を読む。発行が2000年といささか古く、「ちくま学芸文庫」のために編集したものだとある。内容は現象学に関する6篇の論文を集めたもの。一番古いのは1964年に発表したもので、新しいのも1980年といささか古いのはやむを得ない。

 ただ木田元現象学に関する論文を集めたものなので、大変興味深い内容だ。最初に「現象学とは何か」という70ページ近い文章が置かれているが、これは『講座・現象学① 現象学の成立と展開』(弘文堂)という全4巻の総序として書かれたもの。まさに現象学の要約となっている。ただ、木田元岩波新書のために書いた『現象学』に比べるとこちらは新書と違って難しい。

 2番目の「フッサールハイデガー」は副題が「ブリタニカ論文草稿群をめぐって」とあり、フッサール『ブリタニカ草稿』(ちくま学芸文庫)に関する注釈となっている。『ブリタニカ草稿』はイギリスの百科事典『ブリタニカ』の求めに応じてフッサールが「現象学」の項目を執筆したもの。フッサールは当時親しくしていたハイデガーに協力を依頼し、フッサールの書いた第1稿をハイデガーが書き直し、それをまたフッサールが書き直し、最後にフッサールが書いた第4稿を決定稿としたもの。ただ長すぎたので『ブリタニカ』ではたしか半分以下に縮小して英訳したものを採用した。その4稿に渡る草稿をすべてまとめて『ブリタニカ草稿』としてちくま学芸文庫から出版されている。ここにはフッサールハイデガー現象学をめぐっての交渉が記されている。

 ついで「メルロ=ポンティと構造の概念」と「メルロ=ポンティと「制度化」の概念」が並べられている。最後の「現象学弁証法」と併せて3篇がメルロ=ポンティに関する考察になっている。メルロ=ポンティと並び称されるサルトルに関しては、「サルトルの場合、私には『存在と無』から『弁証法的理性批判』への展開に、実践的にはともかく理論的首尾一貫性が認めがたいように思われるので、ここでは採り上げない」と注にある。

 木田元メルロ=ポンティ論ともなっていて、私には興味深い読書だった。(かなり難しかったけれど)。

 

フッサール『ブリタニカ草稿』(ちくま学芸文庫)は現在品切れ? 絶版? になっていて、アマゾンの古書では数千円の値段が付いている。筑摩書房はぜひ増刷してほしい。