植松黎『毒草を食べてみた』を読む

 植松黎『毒草を食べてみた』(文春新書)を読む。ドクウツギからトリカブト、ケシ、チョウセンアサガオなど44種類の毒草について、植物学的な説明やどのように有毒か、有毒成分は化学的にどんなか、またそれにまつわるエピソードを書いている。これがとても興味深い。さらに題名にあるように、植松はしばしば毒草の一部を口にして、中毒症状を報告している。
 ライ麦に寄生する菌が作るバッカクによって10世紀にフランスで4万人が死亡した。妊娠している女性は赤ん坊を死産した。1943年にスイスの製薬会社の研究員がバッカクアルカロイドを研究していて、偶然LSDを発明してしまった。
 スズランも毒草で、アメリカの子どもたちは毎年何人も中毒になっている。秋になると真っ赤な実をつけるが、それを食べて命を落とすのだ。スズランの毒は実のほかに花や葉にも含まれている。
 ケシからアヘンが作られるが、そのアヘンの具体的な吸い方が解説されている。そればかりか、写真付きでケシの実からアヘンを作る手順が紹介されている。私も小学校5、6年生のとき、担任の宮島光男先生がアヘンの採取の仕方を教えてくれたが、ここまで詳しくなかった。もっともアヘンの採れるケシが手近にあるわけでもないから、一度も試したことはないが。
 ナス科のマンドレークは、かつては植物界のバイアグラともいうべき存在だと信じられていた。旧訳聖書にも実りと生殖をもたらす「恋なすび」とある。
 垣根に植えられているイチイも猛毒で、毒成分は葉にも枝にもタネにも含まれている。しかし赤く熟した実の部分だけは毒をもたない。私も子供の頃、近所の生け垣のイチイの実を採って食べていた。さすがに硬いタネは吐き出していたが、タネを飲み込んでいたら中毒を起こすところだった。
 マオウからはヒロポンが作られた。第二次世界大戦で需要が高まり、戦争が終わって余剰品が街にあふれだした。わが師山本弘も戦後ヒロポン中毒に苦しんだのだった。
 ドクニンジンはソクラテスが死刑になったときに飲まされたことで有名だ。中枢神経に作用して最後は窒息死に至る。
 毒草を解説してとても興味深かった。植松は昨年朝日新聞出版のPR誌『一冊の本』に毒草に関するエッセイを連載したが、内容のあまりの過激さからか、3回で中止になってしまった。本ブログにその一部を紹介したことがある。

 

 

毒草を食べてみた (文春新書)

毒草を食べてみた (文春新書)