死に臨んで涙を流す牛

 朝日新聞の読者からの投稿欄「声」に次のような投書が掲載された。(農業 塚田貢 83歳:10月20日朝刊)

 1945年9月21日、武装解除。貨車に詰められ旧満州奉天出発、10月29日、国境黒河到着。明日、対岸ブラゴベシチェンスクに渡るという。
 開拓団から略奪した食料入りの麻袋を運ばされ疲労困憊の夕方、20人で使役に加わった。開拓団から取り上げた牛を食用にするため殺せという。
 10頭の牛が並んでいた。ソ連兵が1頭の眉間にピストルをあて撃ち殺した。2頭目からは従うように、牛は涙を流しながら自ら前脚を折り座るのだ。涙、度胸の良さ、死に対する諦観、これを見て全身が凍った。敗者勝者の差を示唆された。(後略)

 以前、「想像すること、想像しないこと」(2008年1月20日)で、2ちゃんねるに「屠殺場へ運ばれてくる途中では牛や豚が鳴いているが、屠殺を待つ順番になるともう鳴くことはなく、黙って涙を流している」と書かれていたことを紹介したが、それは特殊なことではなかったようだ。