山本弘の作品解説(114)「種畜場」

山本弘「種畜場」、油彩、F30号(天地72.7cm×左右91.0cm)

 

1978年制作。画家が住んでいた長野県上郷町(現飯田市)に、家畜の種付け場があった。大型動物の受精場だ。牛や山羊などの交配をしていた。そこを描いたものだという。

 飯田市近郊は天竜川の流域にあり、秋には濃い川霧が立ちこめる。深い霧のため視界が数メートルなどということもある。

 この作品は柵に囲まれた種畜場を濃い霧が包み、霧の中に種付けを待つ乳牛がいた情景だという。まだら模様の乳牛が白く深い霧の中に描かれている。よく見ないと分からないが、画面いっぱいに大きな牛が筆の尻で微かに線描されている。牛は左側面を見せ、頭を真後ろに向けて右顔を見せている。本当に微かな線描なのは、濃霧の向こうにいる牛が朧(おぼろ)にしか見えていない状況をリアルに表現しているのだろう。見事な解決法ではないか。

 しかし、何が描かれているか分からなくても、色彩とマチエールが限りなく美しい。山本の代表作と言えるのではないか。