祖母からの隔世遺伝、貧唾症

 祖母は生まれつき唾が少ない体質らしく、煎餅など乾きものを食べるとしばしば喉を詰まらせてお茶や水を飲んでいた。私はこれをひそかに貧唾症と呼んでいた。だがこれは隔世遺伝して私に伝わっていた。煎餅を食べると大概のどを詰まらせた。水なしで乾きものを食べるのが苦手だった。
 あれは私が20歳か21歳頃のことだった。深夜友人と街を徘徊し(高円寺だった)、ふと初めてのスナックへ入った。バーテンが何にしますかと聞いてきた。濡れたものなら何でもと私が答えた。乾きものは喉が詰まるからとは言わなかった。店の客がどっと笑った。なぜ笑われているか全く分からなかった。友人も教えてくれなかった。そのことの意味が分かったのはそれから数年してからだった。当時私はまだ女性を知らなかった。
 そう言えば、その頃「お前のセクスはまだ聴覚を持たぬか」と書いた私の詩の1行に対して、後輩の活司が「フナ、早く女を抱け」と言った。活司とは、フナ-活司と呼び合う仲だった。あと1週間でその活司の23回忌だ。