山本弘遺作展の展評(3)

山本弘遺作展」by匿名


チューブから出したばかりのような絵の具が盛り上がる画面は、中間色の淡さがありながら野獣派的な激情を発散させています。長野県飯田市に住み、50年代に日本アンデパンダン展などに出品しましたがしばしば死に直面し、その合間のわずかな平穏を絵画への情熱で支えながら、81年に51歳で死去した画家。展示作品の多くは77年前後の小康期に描いたもの。悲惨なその人生を思うと、赤と黒を基調にした「土の男」などの人物からは自己への溺愛や嫌悪に彩られた苦悩が、緑の風景の上にほとんど全面に厚い白を乗せてしまった風景などからは郷愁が、荒々しい余韻で伝わってきます。
(「赤旗」1994年7月22日)