山本弘への評価

 ギャラリー403で山本弘展を開催するにあたり、過去の個展で書いていただいた展評の抜粋を紹介する。

針生一郎「無頼の画家 山本弘の現代性」(読売新聞1994年7月28日夕刊より)
(……)むろん芸術家の生活がどんな内的苦悩にみちていようとも、作品はそれじたいで評価されるほかはない。だからわたしたちは作品を見る前にどんな成算もあったわけではないが、1点1点みせてもらいながら、しばしば目をみはり、何度も感嘆の声をあげた。初期の暗鬱な色調をもつ写実的な画風から、しだいに形態の単純化と色彩の対照による内面の表出へと転換する。とりわけ注目されるのは、生活が荒廃しても、体力が衰えても、絵画の質の高さは失われないことである。晩年はむしろ、非具象ともいえる奔放な筆触と色塊のせめぎあいのうちに、極限まで凝縮されたイメージがあらわれる瞬間をとらえようとしている。

井関能雄(公明新聞1994年7月24日より)
(個展の)副題に〈風狂無頼〉とあるように、若かりしころの奔放なまでの生きざまのスタイルを終生変えることなく、ついにはアルコール中毒が引き金となって51歳の生涯を終えた、これまではまったく世に知られることのなかった作家の遺作展である。
結果的に、異端の画家とされる小山田二郎と作風、生きざまの面で相通じる点があることが縁となって世に出てきたということになるが、フォルムはともかくとして、あくまで自然そのまま、自らに正直に生きようと葛藤した者にして初めて生み出されるのではと思わせる深い色調による作品群は、身は侵されても心は侵されずという作家自らの〈魂の叫び〉をうかがわせるに十分である。

ワシオトシヒコ(公明新聞1994年8月13日より)
生活者として破滅の下り坂を駆け下りる一方、画家としては、賢明に生きた。持ち前の鋭い感覚で、海老原喜之助、山口薫、脇田和といった戦後を代表する俊英たちのエッセンスをたちどころに消化しつつ、彼なりの造形の極みを探り出そうとしていたように思われる。
決して安易に感傷に溺れることなく、どこまでも、全身に知情意を内包しながら、男くささを発散させる油彩に対し、素描は一見やさしげだ。だが熟視すると、どの線も意志的で、力強い。とりわけ裸婦について述べると、曲線以上に直線を重視し、きわめてデフォルメが大胆だ。そのくせ、画面全体の空間性を壊さない、特異な線の運動となっている。
物故とはいえ、秀れた才能に出遭う喜びは、何ものにも換え難い。猛暑など、吹き飛んでしまう。快い創造のオアシスに臨むようなものである。

芸術新潮(匿名)「無頼画家・山本弘の死に急ぐ絵筆」(1994年9月号より)
長野県の飯田をほとんどはなれることなく、中央の画壇に知られることなく無頼の生をつらぬいた画家・山本弘('30〜'81)の遺作展である。36歳で結婚するが、生活は変わらず酒びたりの日々。吐血、脳血栓の末、手足も不自由に。右の自画像(写真)はそのころ描いたもの。だが制作意欲は衰えず、画風も変わった。それまでの暗鬱なリアリズムからここに挙げたような色の美しい抽象へ。「やる事なす事失敗だが、ゑだけはそうでありたくない」。しかし結局、最後は自宅で首を吊って死ぬ。画家にとってはすべてが「失敗」だったのか。

伊藤正大「異色の画家・山本弘」(信濃毎日新聞1995年4月5日より)
学生のころに描いたという飯田周辺の風景画や、デッサン力抜群の素描の自画像。女性を描いた都会的で明るい水彩や素描。その一方で、口をへの字に結んだ男の顔を画面いっぱいに描いた「村芝居」や、二本の木を擬人化した「木」、抽象化され、輝くような色彩を放つ「沼」などー。彼の作品は、形態の単純化から晩年は抽象に向かっていった。
人けのない飯田市美術博物館の収蔵庫で、そんな内面描写の激しい山本の作品と対峙しながら、この人はなぜ、酒におぼれ、死の誘惑に負けたのであろうかと考えていた。目の前に、妻を描いた油彩の小品「愛子」があった。モデルに寄せる作家の細やかな愛情が感じられる、限りなく美しい肖像画だった。

赤旗新聞(匿名)( 1994年7月22日より)
チューブから出したばかりのような絵の具が盛り上がる画面は、中間色の淡さがありながら野獣派的な激情を発散させています。(中略)悲惨なその人生を思うと、赤と黒を基調にした「土の男」などの人物からは自己へのでき愛や嫌悪に彩られた苦悩が、緑の風景の上にほとんど全面に厚い白を乗せてしまった風景などからは郷愁が、荒々しい余いんで伝わってきます。

産経新聞(匿名M)(1995年7月30日より)
主たる発表の舞台は、東京都美術館での日本アンデパンダン展だった。40歳を過ぎて、具象的な表現を離れ、内面の心象を抽象的に画面に刻印するようになった。そして、画家の遺した画面は無頼とも荒廃とも無縁だ。常に死と隣り合わせながら、みずみずしい詩魂を保ち続けたのだろう。青のたゆたいの中に、詩魂のふるえのような線が走る。魂の火花が散るかのような清冽な画面である。

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ドローイングと油彩小品による−山本弘
2014年7月15日(火)〜7月21日(月・祝日)
12:00〜19:00(最終日17:00まで)日曜日休み
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ギャラリー403
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル4F
電話03-3535-5733