東京表参道のMUSEE Fで福田尚代展「山のあなたの雲と幽霊」が開かれている(10月27日まで)。福田は埼玉県浦和市生まれ 、東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻を修了している。主な展覧会に、2010年「アーティスト・ファイル2010ー現代の作家たち」国立新美術館、2013年「福田尚代 慈雨百合 粒子」小出由紀子事務所、2014年「MOTアニュアル2014 フラグメント」東京都現代美術館、2015年「Reflection:返礼―榎倉康二へ」秋山画廊・スペース23℃、2016年「福田尚代―言葉の在り処、その存在」うらわ美術館、など。
ギャラリーのホームページのテキストから、
山のあなたの雲と幽霊
本展では、《袖の涙》シリーズの新作を発表いたします。
《袖の涙》シリーズは、古くから和歌に詠まれてきたような、涙が沁み込み、ときに朽ちてゆく〈袖〉という媒体への共鳴から生まれました。(※)
拡張した身体であり、此岸と彼岸の境界でもある袖に触れつづける行為は、死者と遺された者との関わりに知覚をはたらかせる時間であったとも思われます。
新作では、幽霊という領域に一歩踏み込みました。衣類の袖を綿状にほぐすなかで、袖の涙から雲へ、雲から幽霊へと、修辞上の飛躍を彫刻的な手法で一息に体感することとなり、身体感覚に潜む無意識のゆくえに驚いています。
日々の生活では幽霊を信じていないにもかかわらず、制作に没頭する別の空間では圧倒的に存在してしまう、そんな美術の術についても、あらためて考えさせられます。
また、子供の頃に、遊戯や読書に親しみながら夢想していた〈アズキと幽霊〉〈ソラマメと虚構〉をめぐる物語も、ようやくささやかなかたちになろうとしています。ご高覧いただければ幸いです。
(※)同シリーズには、袖に見立てたハンカチにオイルパステルを塗り込めた《袖の涙、あるいは塵をふりつもらせるための場所》、古いハンカチを用いて小さな袖を縫う《袖の涙》等があり、「Reflection:返礼―榎倉康二へ」展(2015年)にて展示されました。
画廊には小さなひそやかな作品が展示されている。
《氷山》 ほぐされた衣類の袖、軟膏のふた
《Dear Fairy & Fiction : Life Saver》 ハンカチに刺繍、毛糸の編物
《世界をつなぎとめる糸》 脱色されたハンカチに刺繍
《わたしたち、言葉になって帰ってくる》 コラージュ
《100枚の毛布》 アズキとソラマメで染めたハンカチ、貝ボタン
子供の頃「あーぶくたった煮えたった」と歌いながら鍋に見立てた子の周りをぐるぐる回る遊戯があった。鍋の子が扉をたたく口真似をすると何の音? と訊いて、おばけの音と返事がしたら一斉に逃げる遊びだった。ソラマメの語る話はことごとく周囲から嘘と見做されて人々の怒りを買い、しまいにソラマメのお口は黒い糸で縫われてしまう。アズキの幽霊とソラマメの虚構。小さなハンカチをアズキとソラマメで染め、交互に1枚ずつ重ねた。その一番下にひと粒の豆を忍ばせればお姫様は眠れない。
《精霊》 編み棒に彫刻
《山のあなたの雲と幽霊》 ほぐされた衣類の袖
「衣類の袖を綿状にほぐすなかで、袖の涙から雲へ、雲から幽霊へと、修辞上の飛躍を彫刻的な手法で一息に体感することとなり、身体感覚に潜む無意識のゆくえに驚いています」。
小さなひそやかな作品に何か深い物語が込められているかのようだ。不思議な味わいを持つ作品群。
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福田尚代展「山のあなたの雲と幽霊」
2018年10月15日(月)−10月27日(土)
12:00−19:00(最終日17:00まで)日曜休廊
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MUSEE F
東京都渋谷区神宮前4−17−3 アーク・アトリウムBF
電話03−5775−2469
http://www.omotesando-garo.com