今野敏「果断」が面白い!

 今野敏「果断」(新潮文庫)が面白い。副題が「隠蔽捜査2」と言い、「隠蔽捜査」シリーズ第2作だ。前作も面白かったが、本書はそれ以上に素晴らしい。あんまり面白くて1日で読んでしまった。前作同様主人公は竜崎伸也、今回は大森警察署長に降格されている。しかし彼はもともと東大法学部出身のキャリア組なのだ。西上心太による「解説」から

彼(竜崎伸也)のモットーがまたすごい。東大以外は大学ではないと断言し、家庭のことはすべて妻の仕事と割り切り、たとえ有能であろうとも部下には一度も心を許さない。さらに官僚同士の個人的な付き合いは必要ないばかりか業務の妨げであり、自分の使命は一命をなげうっても国家の治安を守ることだと広言してはばからない。

 そんな嫌なヤツである主人公が、一読後はとても好ましい人物に変わるのだ。また事件が大きく転がって見事なところに決着する。主人公の特殊な造形と言い、ストーリーの巧みさと言い、充実した細部と言い、見事なミステリだ。
 この「隠蔽捜査」シリーズは、この後も「疑心」と「初陣」が刊行されている。「初陣」については、渡辺保毎日新聞6月6日の書評で次のように評している。

 今日巷(ちまた)には刑事モノがあふれているが、そのなかで今野敏がすぐれている理由は3つ。1つはその根底にあらゆる組織に存在する組織と個人、上下関係の基本が追求されていること。もう1つは現実の日本社会への批判。官僚のあり方からマスコミの興味本位で真実を報道しない商業主義まで。そういう現実批判が具体的に描かれていること。そして最後の1つは文体。歯切れがいい。現実を克明に写しながら、しかし簡潔明快。読者の読むスピードが上がるのはサスペンスのためばかりではない。この文体のせいであり、暗くて陰惨で残酷な刑事モノのなかで一際(ひときわ)爽快な読後感はこの文体による。
 以上3点。ストレス解消に適した上質なエンターテインメントである。

 今野敏は1955年生まれ。今まで吉川英治文学新人賞山本周五郎賞日本推理作家協会賞を受賞している。


果断 隠蔽捜査2 (新潮文庫)

果断 隠蔽捜査2 (新潮文庫)