夢枕獏『仰天・俳句噺』(文藝春秋)を読む。俳句にまつわるエッセイ。以前夢枕の『仰天・プロレス和歌集』(集英社文庫)を読み、それが面白かったので期待して読んだ。夢枕は最盛期には月に原稿用紙1000枚も書いたという。なるほど、それほど量産できる理由が分かった。ほとんどしゃべっているままの文体なのだ。作家の文体ではない。やはり量産した中島梓の『がん病棟のピーターラビット』(ポプラ文庫)を思い出した。二人は共通してひどい文体なのだ。
何句か載っている夢枕の俳句もひどかった。
ただ、昔読んだ『仰天・プロレス和歌集』は面白かった。それを何首か紹介する。
医者へ行き運動不足と言われて
我はプロレス二十年目
おれの技を使う前座レスラーに
小遣いをあげたくない
ロープに向かって全力で走り去るきみに
技の名を告げそこね
女にふられてやけになっている我のおそろしさ
今夜は折るかもしれず 折らぬかもしれず
いつになくはりきっているきみをみて
今日のTV中継を知る
膝に疾(はし)るこの痛みを我問わん
膝十字固めときみは言いけり
折ってみろと叫ぶきみの顔が蒼ざめている
折らぬこと知っているくせに
マットに寝てきみを待っている
フライングボディプレスという技のもどかしさ
喫茶店 リングネームで呼び出され
立ちあがれない我である
いえちがいますと言いわけしたいソープランド
わが長身のうらめしさ
健康法はプロレスですと答えるきみは
五十五歳のメインエベンター
一番よく効くのはヘタな技ですと言ってから
頭を掻いているインタビューである
長い脚もつれてころんだのではなかった
社長の寝技に感動する
しのぶれど色にいでにけりわが痛み
ギブアップかとひとのとふまで