朝日新聞2012年3月31日の「うたの旅人」は、林あまり作詞、坂本冬美歌「夜桜お七」だった。林あまりが作詞したとは知らなかった。
林あまりは高校を卒業後成蹊大学へ進学する。前田夕暮の長男で歌人の前田透が文学部教授をしていたからだという。林は前田教授に可愛がられた。ところが林が大学3年のときに前田が急逝する。
キリスト教徒だった前田さんの葬儀がいとなまれた教会で、林さんは聖堂の壁にとりすがって、むせび泣いた。それからのひと月余り、号泣と自失を繰り返すことしかできなかったという。
そして、一回りも年上の、妻子ある男との不倫にのめりこんだ。その結果生み出された短歌はあまりにも過激で、朝日新聞の紙上には紹介されなかった。
舌でなぞる形も味もあなたは知らない
わたしにはこんなになつかしいのに
うしろからじりじり入ってくる物の
正体不明の感覚たのしむ
右脚をしずかにひらかせ首にかけ
ピアニストの指芯に届きぬ
文脈は無視して犬のように仕える
振るべき尻尾などないままに
まず性器に手を伸ばされて
悲しみがひときわ濃くなる秋の夕暮れ
林あまり『ベッドサイド』(新潮社)
林あまり『MARS☆ANGEL』(河出文庫)はもっと過激なのだが、手許になくて紹介できない。
もう少し品の悪くないところでは、福島泰樹を思い出す。
しなやかな華奢なあなたの胸乳の闇の桜が散らずにあえぐ
もうひとつ、おもしろい歌集である夢枕貘『仰天・プロレス和歌集』の紹介はまたいずれ。
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