岩波書店など、出版社の労働環境

 だいぶ前になるが、岩波書店梅棹忠夫の本を初めてDTPで作ったとき、経費が節減できて本の定価を2割安くできたと話題になった。編集担当者の講演があったので話を聞いてきた。(DTPとは活版や写真植字ではなく、コンピューターを使って本を作ること)
 ワープロソフトで書かれた原稿が横組みだったのでそれを縦組みにするのが大変だった。数字か何かが縦に組むと寝てしまうものがあった。それを直すのに一晩徹夜した。その外にも初めてのことが多く相当大変だった。
 質問の時間になって、次の本もこの方式で作りますかとの問いに、いや当分はやめますと答えていた。その次の質問が秀逸だった。お話ではこのための残業がかなりあったようですが、それらの残業代は今回の本の定価に反映されていますか? 答え:岩波書店は労働環境の良い出版社です。ですから残業という概念がありません。したがって残業代が本の定価に反映されているということはありません。
 最近岩波書店の編集者に話を聞いたことがあったが、現在でも残業代はないということだった。ただ岩波書店は普通の出版社が取り入れている派遣社員を使ってないし、編集を外部のプロダクションに外注することもないという。すべて正社員で行っている。それは出版業界にあって特異な誠実な経営だと思う。
 成美堂から植物図鑑を出版し、昔よその出版社から出した本を講談社学術文庫から再発行してもらった植物学者が、どちらの場合もそれらの出版社には一度も行かなかったし、出版社の社員にも一度も会わなかったと言う。すべて外部の編集プロダクションの編集者と喫茶店で打ち合わせをしたとのこと。
 出版社によっては、編集プロダクション(通称編プロ)を呼んでテーマだけ与え、企画から著者の選定、編集、データのまとめと、要するに印刷直前までの作業をすべて編プロに任せるところもあるという。