大久保純一『北斎』を読む

 大久保純一『北斎』(岩波新書)を読む。これは葛飾北斎の優れた入門書だ。しかも全編ほとんどカラー印刷で図版が豊富に使ってある。「はじめに」で執筆方針を述べている。

 第一に、北斎の人物誌としてではなく、その画業に焦点を当てること。とくに、彼の作品をたんに天才のなせる業として手放しで称揚するのではなく、江戸時代の絵画史の中に位置づけ、できるだけ客観的な視点で叙述することを心がけた。(中略)
 第二に、掲出した図に関してはできるだけ本文中で簡潔に説明することを心がけた。(中略)
 第三に、近年の浮世絵研究の動向を踏まえ、《冨嶽三十六景》をはじめとした彼の作品が、出版史の中でどのような役割を果たしたかなど、ところどころに錦絵に代表される当時の浮世絵関係の出版や流通事情との関わりという観点も盛り込んだ。

 構図も色彩もテーマも描写力も全く浮世絵師の頂点に立っている。女の色気を描かせたら歌麿に譲るかもしれないし、おどろおどろの絵では幕末の絵師たちも過剰な表現を見せている。しかし総合点では北斎に及ぶものはないだろう。
 それらのことがよく分かる編集だ。北斎の入門書として最適だろう。岩波新書中公新書講談社現代新書ちくま新書などには、このような評伝が揃っている。各々の関心にしたがってそれらを集めれば、それぞれ大項目主義の百科事典の一項目として機能するだろう。ごく個人的な百科事典ができあがるはずだ。
 新書を大項目主義の百科事典とみなすことについて以前書いたことがあった。
百科事典としての新書(2006年10月17日)

カラー版 北斎 (岩波新書)

カラー版 北斎 (岩波新書)