「日本の鶯−−堀口大學聞書き」を読んで

 関容子「日本の鶯−−堀口大學聞書き」(岩波現代文庫)を読んだ。詩人堀口大學に関容子がインタビューしてそれをまとめている。雑誌「短歌」に連載したものだという。1980年に角川書店から単行本として出版され、1984年に講談社文庫になった。そして昨年末、岩波書店から発売された。
「月下の一群」という訳詞のアンソロジーを訳して編集した大きな業績があるが、詩人としては一流の人ではなかったようだ。
 関容子は歌舞伎に関する多くのエッセイがあり、「芸づくし忠臣蔵」では芸術選奨文部大臣賞と読売文学賞を受賞もしている。何より本書は1981年の日本エッセイストクラブ賞を受賞している。期待して読んだのだった。
 これまで堀口大學の詩を読んだことがなかった。本書は聞書きでありながら、随所に堀口の詩が引用されている。ところが、それらの詩は良いものではなかった。関容子は堀口を尊崇している。そのせいか、地の文であっても堀口に対してやたら敬語が多用されていて読みづらい。堀口も関が崇拝者であることが分かっているので、語りの内容が甘くなっている。厳しく言ったら馴れ合いに近いと言える。どうしてこれがエッセイストクラブ賞なんだろう。
 唯一興味深かったのが、堀口が戦前スペインに滞在していた時、やはりスペインにきていた印象派の画家マリー・ローランサンの愛人だったという件だった。
 読み終えて堀口大學に興味を持つことができなかった。伝記(の類)を読んで、主人公への興味をかき立てられなかったのは少ない体験だった。
 題名の「日本の鶯」は丸谷才一が選んだものだという。マリー・ローランサンが堀口のことを書いた「日本の鶯」という詩から採っている。その詩を堀口が訳したもの。

この鶯 餌はお米です
歌好きは生まれつきです
でもやはり小鳥です
わがままな気紛れから
わざとさびしく歌います

 丸谷才一のエッセイのタイトルは変なのが多い。「星のあひびき」「猫のつもりが虎」「双六で東海道」「絵具屋の女房」「綾とりで天の川」「袖のボタン」「月とメロン」等々。だからやっぱり「日本の鶯」も堀口大學の評伝としてはおかしなタイトルだ。

日本の鶯 堀口大學聞書き (岩波現代文庫)

日本の鶯 堀口大學聞書き (岩波現代文庫)