東京表参道のファーガス・マカフリーでアンゼルム・キーファー展が開かれている(7月13日まで)。キーファーはドイツを代表する現代美術家。1993年のセゾン美術館での個展は圧倒的だった。以来私にとってキーファーこそ世界最高の美術家となっている。
今回ギャラリーでは豪華な図録を販売している。それを参考に何点か紹介する。
「罌粟と記憶―パウル・ツェランのために」
ツェランは『罌粟と記憶』という詩集、特にその中の「死のフーガ」でナチスと虐殺されたユダヤ人について書いている。
フロリダ半島先端の海域、「魔の三角海域」とも呼ばれている。古くからこの地域の未解決事件が語り継がれてきた。スピルバーグの映画『未知との遭遇』ではバミューダ・トライアングルで5機の飛行機が消えている。
「ヨハネ:光は闇の中に輝いている。闇は光を理解しなかった」
このタイトルは形而上学化した新古典主義を「帝国」として復興しようとしたナチス政権の成立により亡命を余儀なくされたブレヒトによる喜劇作『闇の光明』を示唆する。箱の底に堆積する灰は、肉体を焼いた灰であり、肉体を脱ぎ捨てた脱皮の痕跡であり、焚書の対象とされたブレヒトの書物が、灰として残り再起し続ける様でもあるだろう。
「魔女の秤」
魔女の破壊と胎児の創造が秤によって表現されている。胎児の入った小さなガラスケースは、魔女のメタファーであろう。
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さて、実は私はこの個展を見て少々期待外れだった。なぜだろう? 答えは現在放映されているヴィム・ヴェンダースのキーファーを描いた映画『アンゼルム』を見て分った。本来キーファーの作品は巨大なのだ。映画ではキーファーはアトリエの中を自転車で移動している。高さが何メートルもある絵画を描いている。そのことからしたら、今回の個展はキーファーにとってマケット展だったのだ。キーファーに大きさは必須のものだった。
来年には京都の二条城で大規模なキーファー展が予定されているという。それを楽しみにしよう。
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2024年4月2日(火)―7月13日(土)
11:00-19:00(日曜・月曜休み)
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ファーガス・マカフリー
東京都港区北青山3-5-9
電話03-6447-2660
※図録は1万円(現金のみ)