小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)を読む。「はじめに」で、「ナチスは良いこともした」という議論が、定期的に繰り返されていると書き、それが本当かを丁寧に反証している。
ヒトラーは選挙で勝ったから首相になったと言われることがあるが正確ではない。ナチ党が国会で単独過半数はおおろか、保守政党との連立によっても過半数を占めることはなく、ヒトラーの首相就任は議会の選出によるものではなかった。ナチスの権力掌握の過程では、選挙運動や宣伝活動と並行して、突撃隊などによる暴力の行使も大きな役割を果たした。
ナチスの経済政策が不況にあえぐドイツをわずか数年で立ち直らせたと言われるが、アウトバーン建設は前政権を引き継いだもので、しかもプロパガンダ効果以上のものはなかった。失業者の減少は多くの若者が徴兵されたことと、女性を家庭に戻す政策の効果が大きかった。
ヒトラーは戦争準備のために軍事支出を増大させた。1938年には軍事支出は11兆3千億円に達し、これは国家支出の61%にあたった。国家支出を平時にこれほど軍備へと振り分けた国は存在しないという。
そのほか、労働政策や家族支援、環境保護政策など、「良いこと」とされるナチスの政策の欺瞞を次々と暴いてゆく。最近日本にも無縁ではない極右政党の宣伝やフェイクニュースに惑わされないために極めて有効なパンフレットだと思う。多くの人が本書を読んで学んでくれることを願うものだ。