佐藤春夫「小説永井荷風伝」(岩波文庫)を読んでいると、職場の女性が、荷風さんいつもうちのおばあちゃんのお店でカツ丼を食べていたんですと言う。亡くなる前の日も来て食べたそうです。
お店はどこにあるの? 京成八幡駅の駅前です。駅の北口すぐ前の大黒家ってお店なんですよ。いつも荷風さんが食べていた荷風セットっていうのもあるんです。
(写真は京成八幡駅のホームから撮った大黒屋)
大黒家さんは建て替えられたらしくきれいなビルになっていたが、彼女のおばあちゃん増山孝子さんは元気で店に出ていた。荷風はいつも一人で来て同じテーブルに座り、そのテーブルに先客があると帰ってしまった。お昼といってもほかに客の少ない午後2時頃に来ていた。晩年住んでいたのが店の裏手だった。注文は並カツ丼と上新香、それに日本酒1合だった。それを荷風セットとしてメニューに載せている。写真がその荷風セット、1,260円。私は燗をつけないでもらったが。
永井荷風は昭和34年4月30日に一人で住んでいた家で孤独死していた。79歳だった。断腸亭日乗には3月11日から20日まで毎日「正午大黒屋」と記されているという。遺産は4千万円とも伝えられている。50年前の4千万円は現在4億円くらいだろうか。
「芸術新潮」2001年12月号や「散歩の達人」2009年1月号にも紹介されているので、遠く京都あたりからもファンが訪ねて来るという。
この「小説永井荷風伝」より小島政二郎「小説永井荷風」(河出文庫)の方が良かったなあ。それにしても佐藤春夫は難しい言葉が頻出する。曰く、風馬牛、長目飛耳、陋巷、形影相弔、月旦する、等々。
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