世界の問題の大きな部分が人口過多に由来すると思っている。もう遅すぎる気もするけれど、世界中が出産数の極端な制限をすぐにでも始めるべきなのだ。
以下は長谷川真理子のエッセイ「セントキルダ島と羊たち」から。
イギリスを旅する人たちの数は数え切れないほどあるが、スコットランドへ行く人の数は、まだずっと少ない。さらにスコットランド本土を離れて、西岸を取り巻くアウター・ヘブリディーズ諸島を訪れる人は滅多にいないだろう。その中でさらにぽつんと西に離れて位置するのがセントキルダ(島)である。私自身、そこに生息する野生ヒツジの調査に参加することになると聞いたとき、そこがどこにあるのか知らなかった。(中略)研究対象であるヒツジたちは人を恐れる様子もなく、私たちを横目に草を食んでいた。この年は島全体で約900頭のヒツジがいた。島は閉鎖系であるため、ヒツジの数がどんどん増えると環境収容力が一杯になり、やがて一気に大半のヒツジが死んでしまう。ここのヒツジは、このような増加と減少のサイクルを長年(約5年周期で)、繰り返しているのである。島を歩くと足元に、草の間にも海岸の割れ目にも、気が付けばほとんど島中が隙間もないほどに、かつて死んでいったヒツジたちの白骨で覆われていることがわかる。今いるヒツジたちは、吹き荒れる風に頭を低くし、死んでいった同胞たちの骨を踏みつつ、骨と骨の間で草を食んで生を営んでいた。(中略)この年、島の環境収容力は飽和に達し、10月頃からヒツジが死に始め、私がこの手に抱いて体重を計った子ヒツジたちは、2頭を除いて全員が死んでしまった。彼らもまた、草の間に横たわる白い骨の仲間入りをしたのだろう。(後略)
長谷川真理子「セントキルダ島と羊たち」(「UP」1990年6月号)